マックス・ローチこと、Maxwell Lemuel Roach。
その善良そうな顔に騙されてはいけない。
中学生の頃に公園でダンボールを食べていたような顔に騙されてもいけない。
管理人の家には、1枚だけ父が買ったローチのCDがあった。
このジャケットのせいで、管理人はローチのことを長いあいだ真面目な職人ドラマーだと思っていた。
だが、これは大きな間違い。
ローチは人種差別反対の運動家でもあるわけで、「闘士」というのがローチの本性だ。『Money Jungle』についてあれこれ調べていて、ようやくそれに気づくことができた。
マックス・ローチ、政治家としても大成しそうな素質をもった男だ。

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まずはこれ。
年下の人間に対する態度。
ローチ
「君がトニー・ウィリアムス君か。
若手で活きのイイのがいるってのは聞いてるよ。
トニー、マイルスはドラムソロが嫌いだから気を付けろよ。
まあ、せいぜいがんばりな」
トニー
「おぼえておくよ(…あんたのドラムソロは、だろ)」
上からの発言がすごい。そして、トニーの生意気ぶりもすごい。
でも、これなんかまだいい方。
ガラの悪い、チンピラ全開だった時代のこれとかヤバイ。
ローチ
「リーダーはオレとブラウニーなんだから、お前は目立ちすぎんなって言ってんだよ。
オレがグラサンしてるときはお前はグラサン禁止な。」
ロリンズ 「・・・」
ローチ
「あと誤解すんなよ、お前は顔が長いんじゃなくて頭がデカいんだ。
縦長でシュッとしてんのがオレ、お前はただのモアイだ」
ロリンズ 「・・・」
こんなこと言われたら、そりゃロリンズも一緒にやりたいとは思わないよなあ。
ブラウン=ローチ・クインテットのテナー、最初はロリンズじゃなくてハロルド・ランドだったのはこれが理由かも。
以上2つは年下への態度。
年長者に接するときは態度が豹変する。
その根回し能力は驚嘆に値します。
【1962年、『Money Jungle』録音時】
エリントン
「やっぱり Mood Indigo はやりたいよな~」
ローチ
「ミスター・エリントン。申し上げにくいのですが、「ムード・インディゴ」は最近の若者にはあまりウケがよくないみたいですよ。今の流行はフリー・ミュージックです」
ミンガス 「・・・」
エリントン
「え、マジ?」
ローチ
「マジなんです。ところで、ベイシーのナンバーで、「Cute」という曲をご存知ですか? ソニー・ペインのブラシをフィーチャーしたナンバーで、これが58年の曲なのに未だにすごくウケてるみたいなんですよ。」
ミンガス 「・・・」
ローチ
「「Cute」みたいなドラム・フィーチャー曲やりましょうよ。わたしはなんでもできます! ああいうのも得意ですよ。あと、新曲もぜひ。今年はアフリカ諸国の独立が相次いだので、何かアフリカにちなんだ名前の曲があると批評家ウケもいいかと」
エリントン
「それはいいけど………「ムード・インディゴ」が最近不人気…」
ローチ
「まあまあ。ミンガスもそれでいいよな」
ミンガス 「・・・」
これが「A LITTLE MAX」と「Freurette Africaine」が生まれた背景だ。
なんていやらしい奴なんだ、マックス・ローチってやつは。
間違えた。。。
でも、考えてみれば、ローチはこんな思想色の強い作品も発表してるわけで、勝手な思い込みをしていたこちらが悪い。

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こんな舞台裏をのぞいて、ローチの本性がわかってくると、以下の『Money Jungle』へのコメントもどこか嘘っぽく聞こえてしまう。
・マックス・ローチ(ds, Max Roach, 1924-2007)
このレコーディングは、チャールス・ミンガスとわたしにとって夢にまで見たものだった。どちらもデュークの音楽に影響を受けていたし、その素晴らしさに常々感動していたからね。このときは、アルバム二枚分くらいの録音をした。楽しかった。この三人ならいくらでも演奏ができる感じだった。デュークとプレイしていると、まったく煮詰まることがない。次々とアイディアが湧いてくる。〈キャラヴァン〉や〈ソリチュード〉など、彼のオーケストラでお馴染みの曲をピアノ・トリオで演奏するのも新鮮な気分だった。それはデュークも同様だったようだ。
終わったあとでチャールスと近くのバーで乾杯しながら、レコーディングについてしみじみと語りあった。デュークがトリオのメンバーにわたしたちを選んでくれたことも誇らしかった。あのときのウィスキーは本当においしかった。美酒っていうのは、こういうときに飲むお酒のことだ。(86年)
・・・うーん、嘘くさい! 「これでオレのステージが上がった」とか考えてたんじゃないの? 少なくとも、あれだけの演奏をしたんだから、もっとコアなコメントをして欲しかった。。。
コメントの出典はいつものこれ。
この作品については、もう一人、マーカス・ロバーツのコメントも収められている。
・マーカス・ロバーツ(p, Marcus Roberts, 1963-)
デューク・エリントンのピアノ、ベースがチャールス・ミンガスでドラムスがマックス・ローチ。アルバムは『マネー・ジャングル』、録音は62年。曲名は忘れたけれど、彼のオリジナル・ブルースだ(〈スウィッチ・ブレイド〉)。エリントンはピアニストとしても偉大だった。それはこのブルースを聴けばよくわかる。彼が大切にしているのは、テクニックよりエモーションの表現だ。サッド・フィーリングもあれば、ハッピーな表現もある。ブルースは人生そのものだから、そうしたあらゆる表現がこの短い演奏の中に集約されている。まさにこのブルースは人生そのものだ。
ブルースはフォームじゃなくてエモーションを吐露することなんだ。フォームやストラクチャーを追求するだけでは意味がない。そんなものはブルースを演奏する上でほんのわずかな要素にすぎない。大切なことは、ブルースというフィロソフィーをいかに自分の表現を用いて伝えるかじゃないかな? 形式はどうでもいい。ブルースの本質はエモーションの表現にある。それがブルースのフィロソフィーだ。エリントンのこの演奏は、まさしくそうしたものを表している。(97年)
以下は小川隆夫氏のコメント。
オーケストラのリーダーとして、また膨大なオリジナルを残した作曲家として、デューク・エリントンの名前は永遠に不滅である。それらに較べるとあまり語られないが、ピアニストとしても彼は独特のスタイルの持ち主だった。エリントンのピアノ・プレイに焦点を当てた作品は多くない。しかし、いかに優れたピアニストであったかはこの作品が証明している。
マーカス・ロバーツがブルースについて話したのは、インタヴューの直後に『ブルースの彼方へ』(ソニー)と題したブルース・アルバムを発表することになっていたからだ。それもあって、この作品に収録されたブルースをいくつか聴いてもらった。中でも〈スウィッチ・ブレイド〉が気に入ったようだ。ところで『マネー・ジャングル』には、マックス・ローチが語っているように、もう一枚分に相当する未発表演奏が残されていた。いまではそれらも含めてコンプリート・ヴァージョンがCD化されている。ローチがミンガスと美酒に酔った気持ちもよくわかる。どちらかといえば、ローチよりミンガスのほうがエリントンには私淑していた。日ごろはこわもてのミンガスも、このときばかりは相好を崩しっぱなしだったという。
…え~と、言わずもがなだが、このエントリ、小川隆夫氏の著作からの引用以外はほとんど創作、管理人の妄想。ローチとロリンズの険悪なムード、というのも妄想だ。
この2人、ブラウニーも交えて、

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(56年, 1-2月)

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と録音し(56年, 3月)、クリフォード・ブラウンが交通事故で亡くなった後も、

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こんな作品作ってます(56年, 10月)。
最後の『Max Roach +4』のジャケットでみんな黒いスーツを着てるのはブラウニーへの追悼でしょう。事故は6月、録音は10月。
さらにこんな作品では「Valse Hot」も取り上げている。

ヴァルス・ホット?ジャズ・イン3/4タイム+2 (紙ジャケット仕様)
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(56-57年, 10月)
以上、一応のフォロー。
マックス・ローチは、ちょっと自信満々そうなところはあるが真面目でいい人だ、と思います。……たぶん。