ずっと前、友人たちと酒を飲んでいたときのこと。
酒も効いてきて「アーリー・エリントンを聴き直してやっとその素晴らしさに開眼して云々(「でんでん」ではない)」ということを管理人は語り始めたのだが、どうも話がうまく伝わらない。というか、正確に言えば話が噛み合わない。これは皆が「アーリー・エリントン」という音楽を自由に考えていたためで、これを機に、「アーリー・エリントン」とはいつのことを言うのか考えてみよう、ということになった。以下はそのときの大体の記録。
甲
「アーリー・エリントンって、ブランズウィックの録音のことでしょ? あの3枚組のやつ。お世辞にも録音はいいとはいえないけど、確かに無性に聴きたくなるときあるよね。この時期のフレッド・ガイも実にいい」

Early Ellington: The Complete Brunswick And Vocalion Recordings 1926-1931
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乙
「<アーリー・エリントン>って、時期を指すんじゃないかな。Brunswickに吹き込んだ、あの録音「だけ」を言うんじゃないと思うけど。この録音の26-31年っていうのはあくまでブランズウィックとの契約上の問題だと思うから、同じ時期のRCAとの27-34年も合わせて考えるべきじゃないの。だからこれも合わせて、アーリー・エリントンとは、26-34年の音楽かなあ、ぼくには」

デューク・エリントン第一集 ■ ホット・サイド 1927~1934 Duke Ellington Vol.1 The Hot Side 1927~1934
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丙
「アーリー・エリントンとは時期のことを指す、というのには同感。でも、ちょっとレーベルとの契約にこだわり過ぎてるんじゃないの。「Early」って「初期」のことでしょ? つまり、エリントンの音楽のどこからどこまでを「初期」と考えるか、ということだと思うけど。そう考えると、始まりは1番古い録音の24年から、だよね」
「つまりは「ワシントニアンズ」時代も入れるべきじゃないかな」

Rare & Early Duke Ellington Sessions 1924-28
- アーティスト: Washingtonians
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「で、問題はいつまでか、ということだけど、「ブラントン・ウェブスター・バンド」はすでに「初期」とは言えないような。これは一つの代表的な時代区分として区切るべき黄金期だよ。だから、ジミー・ブラントン、ベン・ウェブスター、そしてストレイホーン加入前の39年あたりまでの音楽が「初期」という意味での 「Early」にふさわしいんじゃないかな。ちょうどこのあたりは日本で言う「戦前」とも同じくらいの年代になるし、感覚的にもしっくりくる」
丁
「なるほど、エリントンの音楽を初期・中期・後期と分けることの重要性は認めよう。でも、ふつうに、一般的に「アーリー・エリントン」って言った場合、「あの」エリントンが本格的な活動を開始する前の音源、みたいな意味で使われてないかな。つまり、黎明期・萌芽期というニュアンスの最初期として。他のミュージシャンだったら、「アーリー・イヤーズ」なんていい方をすると思うんだけど、エリントンの場合、この初期からして既に全盛期なんで話がややこしい。それでもやっぱり最初期というものはあるわけで、ワシントニアンズとか、そのあたりのことを言うんじゃないかな」
戊
「…さっきから黙って聴いてたけど、細かいのよ、あんた達! 細かすぎる! 時代区分がどうとか、ふつうそんなこと考えて音楽聴かないわよ。まあ、「アーリー・エリントン」っていったら、録音が悪い状態のものね。CDなのにレコードノイズが聞こえてくるような。だから、なんだっけ、LPになって1枚目のアルバム。『Masterpieces By Ellington』? あれより前のものは全部「アーリー」よ。リリースも51年。ちょうどいいじゃない。あ、だったらいっそのこと、「初期・中期・後期」じゃなくて、「前期・後期」に分けちゃったら? そっちのほうがわかりやすいよ。時代区分に悩んでるふりしてホントは喜んでるんでしょ、あんたらヲタクたちは」
…と、議論は白熱したのだが、結局結論は出なかった。
最後にみんなでブランズウィック盤を聴いて、やっぱりいいね~と共感して解散。
ありがちなオチです。
最近はこのときの会話をよく思い出す。
「Early」というからにはもちろんその後もあるわけで、全体の発展の変遷を考慮しなければ「初期」の位置づけ・区切りなどできるはずがない。存命の芸術家について評価を下すのが難しいのはこのためだ。
管理人が生まれたときには既にエリントンは亡くなっていたし、興味を持ったのは60年代のエリントンだったので、どうしても遡ってその音源を聴くことになる。エリントンのキャリアは24年から74年の50年間。何も考えずに聴いていると整理できずに混乱してしまうわけで、実際、自分の中でどのように時代を区切って聴いていけばいいのか、よくわからなかった。
今、こんなブログ(とツイッターとHP)を書きながら、改めてこの問題を考えているのだが、どれもそれなりに理屈は通っているなあ、と思う。他にも、3期でなくだいたい10年毎の5期に区切れるなあ、とか考えたり、いやもっと細かくも区切れるけど、そうすると逆にわかりにくくなって全体像がつかみにくくなるなあ、とか考えたりもする。
現在の管理人の考えとしては、ブラントン・ウェブスター・バンドの前までを「初期」エリントン、そして、ブランズウィック録音を特に「アーリー・エリントン」と呼び、それ以前は「ベリー・アーリー・エリントン」とすればすっきりするかな、なんて考えてます。ちなみに、この「初期」の時代区分は柴田浩一氏が『デューク・エリントン』で「コットン・クラブ・エイジ」(1927~1938)としている区分とほぼ重なる。やはりこうするのが妥当ですよね。
ちなみに、最後に発言したのが、今の嫁。
というのは嘘で、まあ、実際には無かったんですけどね、こんな夜は。