Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

droloの特長と、サックス・エフェクトをかける際の重要事項。ーARAKI Shin 氏に訊く、ドローロ(drolo)の可能性。(2)

前回の続きです。

 


サキソフォン奏者ARAKI Shin氏へのインタビュー後半。

今回は、いよいよdrolo / エフェクトの具体的な話をお聞きします。

 

【3.Drolo の特長、そしてARAKI氏のエフェクト環境について】

 

佐藤:
少しずつ核心に迫っていこう。

次の質問。
この、droloというメーカーのエフェクター、どういう特長があるんだろう?
あ、でもその特異性と同時に、管楽器奏者がエフェクターを選ぶ際の、簡単なガイドラインみたいなものがあれば教えてほしい。


というのも、このジャンルはほとんど未開拓で、エフェクトかけたい、という人も、どうしていいかわからない、って感じだと思うから。
たとえば、ギター少年だったら、まずはこづかいやバイトで稼いだお金でBOSSのオーバードライブを買って、それから自分のアイドルのミュージシャンの音に近いものを集めていく…のかなあ、と。ジミヘンならワウとファズ中心とか、『Guitar magazine』で仕入れた情報を試していくみたいな。
でも、管楽器の場合はそういう定石がほとんどない。
このあたりに関して、企業秘密をバラさない程度に話してくれれば。

 

ARAKI:
好きな種類を最初から使って何も問題ないと思うけれど……敢えて挙げるとすれば、ループは元の音が生かされるし、管楽器奏者が欲しい「(一人)ハーモニー」が得られるからおすすめかな?
あと、マイクやミキサーなどを使いこなしてフィードバック・イシューが起きにくいセッティングを確立することは、何をやるにしても大切だね。

 

佐藤:
「フィードバック・イシュー」って、いわゆるハウリングのことだよね。うん、たしかに、管楽器奏者はこういうところ無頓着。管楽器奏者は、いわゆるロックバンドのプレーヤーが真っ先に直面する問題について無知だから、まずPAを学ぶってすごく有用だと思う。ミキサーの基本的なつなぎ方・操作方法とかね。管楽器奏者は、音色とか響きについてすごく繊細で敏感だから、つなぎ方の基本的な考え方を理解すれば、ほかのプレーヤーと比べて、すごい武器になると思うな。


じゃあ、それを踏まえての質問だけど、drolo FXについて。

Shin君が公式アーティストでもあるdrolo FXって、どういうメーカーなの? エフェクターの世界には詳しくないので、はじめて聞いた名前なんです。

 

 

ARAKI:
droloは、製作者のSNSを見ても分かるように、アート的感性あふれるメーカーで、技術的には「グラニュラー」とループを得意としていると思う。

 

佐藤:

得意としてる、というのはエフェクターの操作性が優れているということ? それとも、出てくる音が変わっているということ?

 

ARAKI:

後者だね。たとえばディストーションは、過大入力で音を歪ませる手法がスタート地点になるけれど、それに対して、グラニュラーというのは、音をスライスし分割するところからスタートする。

そうすると、タイムストレッチ――音を伸ばしたことで音と音との間に隙間が生まれ、細切れの音、そしてある種のリズムが形成される――や、グリッチ系(微細に切られた断片的な音)のような表現に繋がってゆくんだ・・・と思う。

注目したいのは、スライスしているだけで音色自体はいじらずにそのまま使っていることも多々あるという点で、そこがまた好きなんだ。

そしてこの表現は、生音では絶対に出来ないからこそ使っている。

 

佐藤:
なるほど。

 

ARAKI:
あと、使ったことは無いけど日本語らしき名前が付いたエフェクターもあり、その名前が「Iketara Iku(「行けたら行く」?)。
「フジヤマ」「ゲイシャ」「禅マスター」のようなものではなく、こういう名前を付けるあたりからも、その感性の一端が伺えると思う。

 

佐藤:
(笑)「Iketara Iku」がすごく気になる! なんというか、不確定要素の多い、ファジーな感じのエフェクトなのかな。

 

ARAKI:
EQらしい(笑)。

ほかのエフェクターにも、Stamme[n](部族/語幹?)、Molecular Disruptor(分子攪乱)など、ともかく切れ味鋭い名前が付いている。自分が使っているのもこの2つです。

 

 

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佐藤:
このメーカー、おもしろい。

SNSもインスタ、FacebookYou TubeTwitterと、一通りそろってるみたい。

……ただ、残念なのは、いつみても全商品「OUT OF STOCK」なこと。君に言われてからちょこちょこ覗いてるけど、いつも在庫なしだよ! 商売っ気がないメーカーだなあ。「Iketara Iku」なんて、もはや、公式サイトの商品リストにも乗ってないよ!

 

ARAKI:
現在製造されているものも、実は世界中から注文が殺到して、販売が始まると毎回5分ぐらいで売り切れてしまう。
以前龍君が輸入代理店を紹介してくれるとも言ってくれたけれど、生産が追い付いていないようなんだ。

 

佐藤:

職人でありながら商売人であることは難しい。droloさんの場合は、アーティストでもあるわけで、生産体制をどう確立していくか、というのは今後に期待するしか無いのかな。いいメーカーらしいので、実にもったいない。

…なんか、Droloの話を聞いてたら、SuchmosスペースシャワーTVの番組、「suchmostyle」で「東京エフェクター」が取り上げられた回を思い出した。「東京エフェクター」は、職人技で手作りでエフェクターを作る会社で、そのときも製作体験みたいな感じでマイエフェクターを作ってた。それを観て、「エフェクターって、電気信号を加工する、極めてアナログで繊細な楽器なんだ」って実感した。
で、一度でいいから、「Iketara Iku」の演奏を聞いてみたい。ホントに。

 

【4. サックスでのFX、実践編】

 

佐藤:
じゃあ、ここでもう少し一般的な質問。
一口にエフェクターと言っても、「音色系」と「タイム系」とか、いくつか分類できるよね。管楽器奏者と相性のいいものってなんだろう?

 

ARAKI:
現時点での自分の使い方としては、元の音色を比較的生かせるもの――ディレイ、リバーブはもちろん、あとはループなど。
そして「グラニュラー」あるいは「グリッチ」のような、広義でタイムストレッチやスライサーの仕組みを利用したものを得意とするdroloとは、そういう意味でも相性が良かったのだと思う。
ループを2重にかけてスライサーのようにすることもあるよ。

 

佐藤:
あと、Drolo のほかにつないでるエフェクターについても説明してもらえたら。

企業秘密の範囲内で。(笑)

 

ARAKI:
ループやピッチシフトなどは色々な形でよく使うね。
あとはエフェクターといえるのか分からないけれど、切り替え音の少ないスイッチを使ったAB BOXというものをF Sugarさんに作ってもらい気に入っている。
エフェクトをかけた音をループさせながら、ボタン一つで切り替えて別回線から音を出す、といった使い方ができるから、とても役立っているよ。

 

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佐藤:
なるほど。じゃあ逆に、管楽器奏者と相性の悪いものは?

 

ARAKI:
サクソフォンとの相性」ということでもいいかな?
そうすると、ディストーションのような大胆な歪みを期待するものになるかな。
というのも、サクソフォンは音の漏れる穴が多いので、音の出る場所がベルに集中しているトランペットなど金管楽器に比べて、エフェクトがガツッとはかかり切らず、元の音が混ざった温(ぬる)いというか優しいものになりやすい。
使いようはあるだろうけれど、トランペットに比べたら使える場面や自由度にやや制約がある。

 

佐藤:

なるほどなあ、って、さっきから納得してばっかりだけど(笑)、エフェクトの使い方を強引にまとめさせてもらうと、「使うべき音楽」の理解が最優先だと思った。
ここ10年くらいの君の音楽活動をみてると、Shin君がやってるエフェクトの使い方はすごく納得できる。まず、自分がやりたい音楽をイメージすること。これがないと、エフェクトを使っても、ただの電子音響実験で終わってしまう、ということかな。

 

 

【5. Drolo公式アーティスト、ARAKI Shin】

 

佐藤:
じゃあ、とうとう今日一番ききたかった質問。
このdroloと Shin君の演奏/使い方で、どんなケミストリーが起こったんだろうか? Drolo の日本初の公認アーティストになったわけだけど、そのきっかけは? どのあたりが評価されたんだろう?

 

ARAKI:
自分としてはDrolo FXとの出会いによって、ついにミニマル/アンビエント/ドローン的アプローチが可能になったということ。
Droloだけではなくこの2、3年の欧米のエフェクターは本当に面白いよ。

 

佐藤:
ほう。

 

ARAKI:

不況の日本で数寄者(すきしゃ)が減ったのか、それとも製作者が世界で増えたためか、残念ながら日本に入ってきていない物、情報が多い。それで今は海外の発信を注視している。
自分の使っているエフェクターも、輸入代理店が無いものや、あっても日本ではマイナーだけど海外では「ディレイランキングNo.1」になったようなものなどがある。
たとえばそのディレイには4度や5度ピッチシフトしたフィードバックをもたらすモードがあるんだけれど、これが9世紀ごろ・・・中世の教会音楽で見られた「平行オルガヌム」みたいだと思ったので、そういう要素を入れた演奏をしたりもする。

 

佐藤:
長尺の動画でいうと……さっそく、1分過ぎた辺りくらいのところからかな。
これ、こういう機能を「平行オルガヌム」という観点から導入するところがShin君らしい。

 

 

ARAKI:
そこら辺をエフェクターに生かしている人は少ないかもしれない。
drolo FXでいえば、たとえば一瞬だけつまみをひねってすぐに戻すことでループの中に違うフレーズが入ってきたりして、ミニマルミュージックで少しずつ変化してゆくさまに似ている。
このあたりの身体的かつある意味ローテクな使い方をしている人はたしかにdrolo使いでは自分も見たことが無いし、気に入ってくれた点なのかもしれない。

 

佐藤:
なるほどなあ。日本人初のDrolo公式アーティスト、おめでとう! さっそく日本でのdroloの知名度を上げるべく、布教活動に勤しんで…といいたいけど、なにしろalways 「OUT OF STOCK」な状態だもんなあ。まずは生産数を増やしてもらわないと。

 

ARAKI:
(笑)

 

【6.エリントンサウンドへの興味など】

 

佐藤:
最後になったけど、サックスの音色といえばエリントンのサックス・セクションだ。
これについても聞かせてほしい。
ジョニー・ホッジスを筆頭に、ハリー・カーネイ、ベン・ウェブスター、ジミー・ハミルトン………エリントン・オーケストラには個性的なリード奏者が多い。彼らは一聴して誰だかわかる個性的サウンドを持っている……はっきりいえば、クセが強い。あれだけクセが強いと、セクションプレイは向いてないように思えるんだけど、出てくる音はバラバラではない、エリントン・サウンドになっている。あの秘密は何なんだろう?

それと、エリントン・サウンド全般について。
エリントンはジャズの中でもオールド・スクール中のオールド・スクールで、時に戦前派が全盛期と考えられたりもする。その観点からは管楽器にエフェクターを使うなんて別世界の話で、次元が違う。
ただ、エリントンって、もしも現代に生まれてたら「コンピュータ・ミュージックの打ち込み魔」になってたのでは、と加藤総夫先生が『ジャズ最後の日』と軽く言及してて、そこからShin君にインタビューしてみようと思ったんだよね。

 

ジャズ最後の日

ジャズ最後の日

 


エリントン自身、「高い金を払って君たちを雇ってるのは、いつでもすぐに自分の思い通りの音を試してみたいからだ」と言ってるし。

 

ARAKI:
『誰も語らなかった エリントン書法の真実』(ジャズ批評No.67、加藤総夫)。
これも龍君に教えてもらったね。本当に感謝しています。
音響的なところ、ヴォイシング、そして、ポップさとそれに忍び込ませた毒・・・・エリントンはわたしが最も影響を受けたミュージシャンの一人です。

 

ジャズ・ストレート・アヘッド
 

この論考は、こちらにも収録。

 

佐藤:
いや、エリントンについては答えを急ぎすぎたかもしれない。
稿を改めて話すべき話題だね、これは。

 

ARAKI:
楽しみにしています。

 

佐藤:
今日はありがとう。いろいろ勉強になりました。
個人的には、drolo の目に止まって、公式アーティストになった経緯をもっと詳しく聴きたいと思った。でも、それはまたの機会にしよう。
じゃ、なんとかこのコロナ禍を乗り切ろう!

 

――――――――――

以上、ARAKI Shin さんに話を聞きました。

氏の今後の活動に期待しつつ、時間の関係でエリントンの話がほとんどできなかったのが残念。次の機会を約束しての解散となりました。

次の機会では、たっぷりエリントンについて聞きたい。

お楽しみに!

 

 

【ARAKI Shin 氏 作品リスト】

 

・ソロ作品 

A SONG BOOK

A SONG BOOK

  • アーティスト:ARAKI Shin
  • 発売日: 2008/06/18
  • メディア: CD
 
Halls

Halls

  • アーティスト:ARAKI Shin
  • 発売日: 2010/02/06
  • メディア: CD
 
PRAYER

PRAYER

  • アーティスト:ARAKI Shin
  • 発売日: 2015/04/23
  • メディア: CD
 

 

 

 ・プロデュース作品

Reed Organ Hymns [PSC-001]

Reed Organ Hymns [PSC-001]

 

 

 

・JAZZ COLLECTIVE

JAZZ COLLECTIVE

JAZZ COLLECTIVE

  • アーティスト:JAZZ COLLECTIVE
  • 発売日: 2012/04/18
  • メディア: CD
 
COLLAGE

COLLAGE

  • アーティスト:JAZZ COLLECTIVE
  • 発売日: 2014/07/23
  • メディア: CD
 
PRELUDE

PRELUDE

  • アーティスト:JAZZ COLLECTIVE
  • 発売日: 2013/04/24
  • メディア: CD
 

 

 

・サポート参加作品など(の一部)

銀の子馬

銀の子馬

  • アーティスト:永山マキ
  • 発売日: 2006/10/11
  • メディア: CD
 
twilight (Reissue)

twilight (Reissue)

  • アーティスト:haruka nakamura
  • 発売日: 2013/07/25
  • メディア: CD
 
MELODICA (feat. ARAKI Shin)

MELODICA (feat. ARAKI Shin)

  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: MP3 ダウンロード
 
FANTASY

FANTASY

  • アーティスト:EXILE
  • 発売日: 2010/06/09
  • メディア: CD
 
瞬間的シックスセンス

瞬間的シックスセンス

  • アーティスト:あいみょん
  • 発売日: 2019/02/13
  • メディア: CD