Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

ナクソスで聴く、SP時代のエリントン。(3) 『Cotton Club Stomp』(3)

 

目次

 

あいかわらずナクソスのエリントンばかり聴いている毎日。

一時期、管理人はナクソスを聴き漁っていた。CD棚を掘り返してみると、ぼろぼろNAXOSおもしろCDが出てきた。ナクソスというレーベルは、エリントンに限らず面白いCDをたくさん出しているのである。

 

ROUTINE CLASSICS the 1ST

ROUTINE CLASSICS the 1ST

 

2009年。クラブDJ、小林径によるクラシックのコンピレーション。

ストラヴィンスキーのタンゴ、レスピーギのワルツなどマニアックな選曲があるかと思えば、ホロヴィッツとグールドの演奏も選ばれており、コアなクラシックファンからは怒られ、雑食な音楽ファンからは歓迎されそうなリスト。

歴史的な評価云々を別にして、「クールな曲をセレクト」というDJな観点で編まれたこのアルバム、聴いていて実に楽しい。で、「2nd」はいつ出るのだろうか?

 

 

さて、『Cotton Club Stomp 1927-1931』である。

聴けば聴くほど、このアルバムはよく編まれているなあ、と感じてしまう。

 

  • 1.前回までの復習 

 

コットン・クラブ・ストンプ (Duke Ellington: Cotton Club Stomp)

コットン・クラブ・ストンプ (Duke Ellington: Cotton Club Stomp)

 

 

 

前回までのエントリで確認したこと、それは、このアルバムは、

 

1.当時のコットン・クラブの狂騒を再現すること

2.シリーズ第一作目としてのエリントン・サウンドの紹介

 

という、明確な2つの意図によって編まれた1枚である、ということだ。

それは、「Cotton Club Stomp」が冒頭を飾っていることからも明らか。

 

1. Cotton Club Stomp
2. Mood Indigo
3. Rockin' in Rhythm
4. Misty Mornin'
5. The Mooche
6. Ring Dem Bells
7. Three Little Words
8. Double Check Stomp
9. The Blues with a Feelin'
10. Jubilee Stomp
11. Creole Love Call
12. Harlem River Quiver (Brown Berries)
13. Black Beauty
14. Hot Feet
15. Saratoga Swing
16. Shoot 'Em Aunt Tillie
17. Black and Tan Fantasy
18. It's a Glory

 

  • 2.「Cotton Club Stomp」は、この時代のサウンドを象徴する1曲だ。

「Cotton Club Stomp」、最近ではこんなアルバムでカバー、というかサンプリングされている。当時のコットン・クラブの狂躁はこんな感じだったのではないか。

HIPHOP AND JAZZ MIXED UP 1

HIPHOP AND JAZZ MIXED UP 1

 

#12が「Cotton Club Stomp」という原曲そのままのタイトルで、ほぼ元ネタ音源そのままのトラックに「2statio」なるフィメール・ラッパーのラップが乗ったカバー。

興味深いのは、完全にHIP HOPなのにエリントンの元ネタはほとんどいじられていないことだ。これはソニー・グリーアの影が薄いということもあるが、この時代の「ズンチャ、ズンチャ」というリズムが意外に現代のダンス・ミュージックに近い、ということを表している。

これに自覚的だったのが、少し前に流行ったエレクトロ・スイング。あの流れでエリントンも「Ring Dem Bells」とかカバーされてた。ただ、エレクトロ・スイングは「現代のダンス・ミュージックに近い」ことを拡大化して1つのジャンルにまで発展させたが、「近い」だけで終わってしまっているのが残念。この「S.MOS」の解釈も、当時のコットン・クラブの狂躁をよく再現していて(体験したわけではないが)素晴らしい出来なのだけど、それだけで終わってしまっているのが残念。

 

ちなみに、S.MOSのこれは、当時 vol.2も同時に発表されており、そちらではなんとエミネムが「Tang」を、Young MCが「Jubilee Stomp」をカバーしている。どちらもエリントンの元ネタへのリペクトが感じられる素晴らしいサンプリングで、エミネムは実に「らしい」ラップで、悪ガキぶりを発揮してて頼もしい(当時40歳だが)。

HIPHOP AND JAZZ MIXED UP 2 / S.MOS

HIPHOP AND JAZZ MIXED UP 2 / S.MOS

 

 

ちなみに、元ネタの「TANG」についてはここで。

 

  • 3.エリントン色濃厚なエリントン曲も収録。

Rockin' in Rhythm」「The Mooche」「Creole Love Call」「Black Beauty」「Black and Tan Fantasy」など、これから演奏し続ける曲がこの時代に作られていることも実に興味深い。これらはどれもエリントン色が濃厚である。「エリントン色」としたのは「ストレイホーン色」と区別するためだ(一般には、エリントンとストレイホーンはその類似性が強調されるが、相違性も確かにある。フランス印象派の香りがするものはストレイホーンの筆によるものが多く、土着的・ブルース臭ぷんぷんのものはエリントンの筆によるものが多い。ストレイホーン死後、エリントンの書く曲が回顧的・回帰的に初期の土着的な雰囲気を帯びてくるのもこの点から考えるべきである)。

その中でも最も重要なのは「Mood Indigo」。エリントンはつねにこの曲のハーモニーを書き直し、終生この曲を演奏し続けた。ここぞ、というときには必ずこの曲を演奏している。例えば、LP第一作目の『Masterpieces By Ellington』でこの曲を演奏しているのもなんとなく、なんかではない。ここには、「メロディではなくハーモニーを長時間聴かせる実験」という、意図があるのである。

 

Masterpieces By Ellington

Masterpieces By Ellington

 

「Mood Indigo」はエリントンにとって最重要曲なのだ。

だから、ミシェル・ゴンドリのアレの邦題が「ムード・インディゴ」であるのは正しい。担当者、わかってるなあ。 

 

 

名盤の誉れ高い『Money Jungle』でも「Mood Indigo」をやるはずだった。しかし、計算高く年長者の機嫌を取るのが上手いマックス・ローチによって「mood Indigo」は選曲から外れてしまった。まあ、そのおかげで、「Freurette Africaine」という名曲が生まれたわけだがって、これは以前に書いた。

 

エリントンと「Mood Indigo」についてはまたどこかで書こう。

 

管理人にはこのアルバムを編んだ人間の意図が手に取るようにわかるのである。

まず、「Cotton Club Stomp」でコンセプトを示し、2曲目で重要曲「Mood Indigo」もこの時期に完成していたんですよ、と念押し、そしてとにかくこの時代は大騒ぎの時代でね(Rockin' in Rhythm」「 Double Check Stomp」「 Jubilee Stomp)…と話を続けていってるわけだ。

 

そして恐ろしいことに、これらの曲を続けて聴くとこの時代のエリントン・サウンドの特徴も自然と理解できてしまう。そのように並べられているのである。

 

  • 4.この時代は「低音」がサウンドの要。

この時代のエリントン・サウンドは「低音」がサウンドの礎となっている。

具体的には、ハリー・カーネイとウェルマン・ブラウド。

若きハリー・カーネイのはちきれんばかりの躍動するバリトンと、ウェルマン・ブラウドのパワフルでありながら確実にビートを叩き込むベースだ。第1期コットン・クラブ時代のエリントン・ミュージックを前に進めているのはこの2つのグルーヴ源であり、この2人にK.O.されるのがこのアルバムの正しい聴き方であるといえる(フリッパーズ・ギター的に言うならダブル・ノック・アウト)。

 

Harry Carney

f:id:Auggie:20170428044614j:plain 

1曲目の「Cotton Club Stomp」からすごい。バリトンはリード・セクションの最低音を吹くなんて誰が決めたの? ソロも吹くし、オカズも入れる、とにかくじっとしていることがない。19歳(当時)の男子ならではのリビドーが爆発って、いやいや、19歳にしては技術と創造性が抜きん出てるでしょ。。そりゃエリントンは手放したくないはずだ。

 

そしてウェルマン・ブラウド。

 

Wellman Braud

f:id:Auggie:20170428045847j:plain

写真から伝わってくる「絶倫感」がすごい。

エリントンオケをドライブさせているのはこのおじさんだ。ブラウドはエリントンオケ初のベーシストでもある(その前はヘンリー・「ベース」・エドワーズのチューバ)。

当時は「ズンチャ、ズンチャ」 の2ビートが主流であり、4ビート、ランニングベースの黎明期である。そのため、このアルバムでのブラウドのベースラインも単調なのだが、それでもしっかりとビートが刻まれているのはさすが。そして、黎明期であるからこそ、たまに表出する4ビートが際立つのであって、このコントラストを聴いているだけでも楽しい(例えば、「Double Check Stomp」のベースソロなんてその最たるもの)。

 

エリントンは、オケのグルーヴに関しては10歳年上のこの男を信頼しきっていたことだろう。現在のクラブミュージックではバスドラでベース音を代用した音作りをすることがあるが、ここでは逆だ。ブラウドのベースがバスドラのリズムを出している。

 

さて、そうなると、リズムの要であるはずのドラムなのだが…。

 

 

  • 5.やっぱり、ソニー・グリーアって…

ソニー・グリーア、エリントンの年上の友人にしてワシントニアンズからのドラマー。

 

Sonny Greer

f:id:Auggie:20170428052650j:plain

 

ソニー・グリーアのドラムは、エリントン・サウンドの中でどのように位置づけられていたのだろうか? SP時代のエリントンを聴く人なら誰もが抱く問いだ。もっとはっきり言ってしまえば、「ソニー・グリーアってエリントンオケに必要だったの?」ということ。

少なくとも、グルーヴには関係していない。エリントンもリズム面での貢献は期待していなかったのではないか。ブラウドのベースと、フレッド・ガイのギター(バンジョー)でリズムは十分、グルーヴも十分。特にフレッド・ガイの4つ切りが重要で、フレディ・グリーンよろしくオケのテンポ&グルーヴのキープを巧みにコントロールしていた(そういえば2人ともイニシャルがFGだ!)。

その証拠に、「Misty Morning」では珍しくソロをとるのだが、その間、後ろのリズムはガタガタ。ソニー・グリーアはテンポキープという意味でも機能していないことがわかる。

グリーアの役割はパーカッションだ。それはドラムセットを見てみれば一目瞭然。ティンパニから木魚、銅鑼、「NHKのどじまんチャイム」…。こんなに必要? いや、打楽器奏者たるもの、仙波師匠のようにさまざまな楽器に挑戦するのは素晴らしいことだが、グリーアは使いこなせていない。「Ring Dem Bells」にのどじまんチャイムを使うのは発想として面白いし音色としても効果的なのだが、明らかに演奏力が追いついていない。SEとして鳴っているだけだ。そして木魚。「Cotton Club Stomp」終盤での入れ方は素晴らしい。躁な雰囲気を増強させている。が、「The Mooche」の木魚は不要。木魚の音色自体が曲想に合わないし、演奏も雑、リズムパターンもセンスがない。これならハットを踏んでるだけの方がマシだ。なんか、やたらと径の異なるシンバルを並べるアマチュア・ドラマーみたいなのである。

 

だが、結論を急ぐのは止めておこう。

ナクソスのSP時代のエリントンはまだ13枚もあるのだ。

その全てのドラムはグリーア。それらを聴いてから評価しても遅くない(そうか?)。

 


最後に(1)でも引いた、ナクソスの紹介文をもう一度引いておく。

また、このアルバムにはボーカル曲がほとんど入っていないのだが、それは次の『It Don't Mean A Thing』でのお楽しみなのである。ホント、コンパイルした人間はわかってるなあ。

エリントンは、最初からエリントンだった!」 全く他人の影響というものを感じさせない(つまり、模倣や習作が存在しない)芸術家は希有である。エリントン以外では、ストラヴィンスキー(ただし晩年は古典回帰とやらで「音大生以下」に成り下がった)、武満徹チャップリンジャイアント馬場、くらいしか思いつかない。エリントンの凄さは、飽くなきサウンド追求、これに尽きる。浅草の仏具屋から輸入した木魚(The Mooche でポコポコ鳴ってます)、のどじまんチャイム(Ring Dem Bells)、Creole Love Call では何と女性Voにtpのプランジャー・ミュートのマネをさせてます。凄すぎる!