自分が影響を受けたピアニストとして菊地雅章がよく名前を挙げるのがモンクとエリントン。その菊地雅章がエリントンの『マネー・ジャングル』について語ったものを見つけたので引いておく。引用元は小川隆夫の例のシリーズ。我ながらワンパターンです。
- アーティスト: デューク・エリントン,チャールス・ミンガス,マックス・ローチ
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2014/10/08
- メディア: CD
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・菊地雅章(P)
ポール・ブレイ? いや、デュークか。エリントンもギル(エヴァンス)やオレに似てるんだねえ。オレ、デュークが一番好きなピアニストだからね。このひとみたいにピアノを弾くのは大変なんだよ。あんまり自分のやりたいことがわかっているピアニストっていないからね。たいていのピアニストつて手癖でいっちゃうでしょ。このひとだって手癖はあるんだろうけれど、それを感じさせない。オレは逆立ちしたって、一生かかっても、こういう風には弾けないよ。
(エリントンとの思い出ってありますか?)
ないんだよね。オレ、あのひととは一回も会ったことがないし。生はよく聴いたけれどね。その昔、NHKに出たとき、オレも観にいったんだ。びっくりしたのは音の大きさが全然違うこと。オーケストラ全体が凄く大きな音で鳴っていた。デュークなんかガンガン弾きまくるし、イメージとはまったく違ってた。
デュークの作品は革新的とは思わないけれど、やっていたことはユニークだよね。オーケストラのヴォイシングにしたって、理屈じゃ割り切れないところがたくさんある。話は違うけれど、〈キャラヴァン〉って曲があるじゃない。あれをバンドに入ってきた新人に、どんなキーでもいいからやらせるんだって。そうすると、オーケストラがそれにピタッと合わせることができたって話だよ。だからギルが最後の五年くらい譜面にこだわらなくなっていたのは、エリントンに通ずる境地にあったのかもしれない。ある程度の譜面はあるけれど、どういう風にもいけるっていうかね。(95年)
エリントンが菊地雅章の一番好きなピアニスト? 初耳だが、そう言うのだからそうなのだろう。このインタビューから4年後の99年には渋谷毅とこんな作品を録音している。
やはり Ellington lover である渋谷毅とのピアノ・デュオ。2人のスタイルの違いがうまく影響しあった佳作。渋谷毅の演奏からはエリントンの「美しさ」、菊地雅章の演奏からはエリントンの「前衛性」を聴くことができる。じっくり聴きたい1枚。
菊地雅章とギルのエピソードを1つだけ引いておく。
ギル没後の1年が過ぎた某日、ホテルのレストランで偶然マイルスと再会した。「12階のスィートに住んでるが寄らないか?」と誘われた。
「窓際にギルの大きな写真が置いてあるので懐かしい気持ちで見ていたら、マイルスが『Do you know he loved you?』っていうから、俺も『I did,too』って答えたんだけど、涙が出そうで困ったよ…。俺が14年間一緒に住んでいた女と別れて苦しんでいる時に、『心が痛む時、お金は多少なりともその痛みを和らげてくれるから』と言って、ギルが3500ドルのチェックを送ってくれたことがあるんだ。『SEE YOU SOON, LOVE, GIL』ってメモと一緒に。あれにはまいったね。たぶん自分も余分なお金を持ってるわけじゃないのに…あの人は、ある意味で人生の達人だったな」
最高だよ、ギル。
【引用元】
ギルとのエピソードはこれ。
渋谷毅とエリントンについてはこっち。