Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

エリントン、63年2月の奇跡。

63年2月、エリントンはヨーロッパで暴れまくっていた。

わずか1ヶ月の間にミラノ~ストックホルムを縦断してライブをしまくり、その間に実に5枚のアルバム作品を録音する。『Money Jungle』『Duke Ellington & John Coltrane』はこの半年前の62年9月の録音(この2作品もわずか10日間のあいだに録音されたものだ)。この時期のエリントンの創作意欲はすさまじい。

 

マネー・ジャングル

マネー・ジャングル

 

 

デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン

デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン

 

 

行程を具体的にみてみよう。

1月半ばにイギリスに渡ったエリントン一行は同月末にはパリに移り、
2月アタマからオリンピア劇場で怒涛のライブを行う(2/1, 2)
このときの演奏は『パリコン』に収録される。

グレート・パリ・コンサート VOL.1

グレート・パリ・コンサート VOL.1

 

その後一行は北に向かって演奏旅行。

この旅行中の8日、スウェーデンでアリス・バブスと出会い、その歌声に魅了されたエリントンは共演・録音の約束を取り付ける。ストックホルムハンブルク、ベルリン、チューリッヒ、ミラノと南下したところで、22日に『Jazz Violin Session』収録。

 

その後23日に再びパリに戻るとすぐにオランピア劇場で締めくくりのコンサート。

グレート・パリ・コンサート VOL.2

グレート・パリ・コンサート VOL.2

 

このヨーロッパを縦断したときの音源は残されていないのが残念。もっとも、『The Great Paris Concert』という2枚組の大作が残されているのだからそれで十分、ではあるのだが。

パリに戻って終わり、ではない。ここからはスタジオが創作の場となる。

 24日はアフリカ勢との録音。まず、ダラー・ブランド(アブドゥーラ・イブラヒム)の『Duke Ellington Presents The Dollar Brand Trio』をプロデュース。

Duke Ellington Presents

Duke Ellington Presents

 

 

同日、さらにボーカルにアフリカの歌姫、サティマ・ビー・ベンジャミン、ピアノにストレイホーンを加えて『A Morning in Paris』を録音。つまり、この日1日で2枚の作品を録音したことになる。

A Morning In Paris

A Morning In Paris

 

 

ア・モーニング・イン・パリ

ア・モーニング・イン・パリ

 

なお、この2作品の録音日は少したどりにくい。両作品のライナーノーツには「63年2月」としか記されていなかったり、「23日」とあったりするが、諸データから24日と思われる。なにしろ23日はオランピア劇場でコンサートをしており、なんといってもそのときの演奏が『パリコン』に収録されているじゃないか!

 

さて、話は少し脱線するが、このダラー・ブランドとサティマ・ビー・ベンジャミンは後の65年に結婚する。エリントンとの出会いが2人の結婚に何か影響があったのかはわからないが、2人にとっては忘れられないものだったのだろう。2人とも、それぞれエリントンへのトリビュートをつくりあげる。

 

ダラー・ブランドは『this is Dollar Brand』(65年)。ソロ・ピアノである。 邦盤では『エリントンに捧ぐ』なんてタイトルで発売されていたみたい。

エリントンに捧ぐ[ダラー・ブランド][LP盤]

エリントンに捧ぐ[ダラー・ブランド][LP盤]

 

 

今なら同内容のこちらの方が入手しやすいだろう。 

Reflections

Reflections

 

 

 サティマ・ビー・ベンジャミンはこれ、『Sathima Sings Ellington』(79年)。直球なタイトルがgood。

【廉価盤】SATHIMA sings ELLINGTON / サティマ・シングス・エリントン

【廉価盤】SATHIMA sings ELLINGTON / サティマ・シングス・エリントン

  • アーティスト: サティマ・ビー・ベンジャミン,Sathima Bea Benjamin
  • 出版社/メーカー: NATURE BLISS
  • 発売日: 2012/04/04
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

『A Morning in Paris』がスローな曲が多く、1枚の作品がやや単調だったのに対して、こちらは割りと自由な演奏だ。「Lush Life」は共演したストレイホーンへの目配せか。 

 

63年の話に戻る。

アフリカ勢との録音を終えたエリントンは、今度は28日にバブスと『Serenade to Sweden』の収録を行う。こちらは録音に倍の時間がかかったーーといっても2日間。翌日の3月1日に録音完了。

SERENADE TO SWEDEN

SERENADE TO SWEDEN

 

 

まさに「グレート」なヨーロッパツアー。

当時エリントン63歳、絶倫としかいいようがない。

仗助もビックリだ。

f:id:Auggie:20170202041106j:plain

あふれ出る創作意欲を抑えることができなかったのではないか。

もう、演奏できるのが楽しくて楽しくて仕方がなかったのだろうと思う。 

想像するにこんな感じか。

f:id:Auggie:20170202041826j:plain

 

さて、エリントンは他にも何度もヨーロッパツアーを行っている。

たとえば66年にも1月末から2月にかけて同様のツアーを行っているのだが……こちらはあまり楽しい旅ではなかった。63年の「奇跡」に比べると66年は「苦難」とでもいうべきか。この話はいずれまた。