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Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

ホッジスの乱から生まれた名盤、『Ellington Uptown』『Hi-Fi Ellington Uptown』

『Masterpieces by Ellington』と並んで、50年代初期の名盤として紹介されることの多いこのアルバム、初発・再発の経緯がややこしい。

まずは野口久光氏の発表当時の解説から見ていこう。

 

Ellington Uptown

Ellington Uptown

 

 

 楽壇生活三十年近いエリントンの数多い吹込みの中には傑作も少なくないが、LPとして吹き込んだ最近のものの中で最も力作であり、録音もまたLPジャズの最高のもののひとつである。吹込みは1951年、大分オリジナル・メンバーが抜けているが、ハリー・カーネイ(bs)、レイ・ナンス(tp)、ファン・ティゾール(tb)の旧メンバーもおり、ジミー・ハミルトン(cl)、ポール・ゴンザルヴェス(ts)、ラッセル・プロコープ(as)、ヒルトン・ジェフアーソン(as)、キャット・アンダーソン、クラーク・テリー、ウィリー・クック(tp)、クェンティン・ジャクソン、ブリット・ウッドマン(tb)、ウェンデル・マーシャル(b)、それにドラムのルイ・ベルソンを加えたベテランと新鋭の陣容で、質的には一流のビッグ・バンドであり、このLPは実にききごたえがある。

 五曲のうち新曲でコンサート用の組曲「ア・トーン・パラレル・トゥ・ハーレム」はエリントンの仕事の上の故郷ニューヨークのハーレムを主題にした大作で、まさしく鑑賞者を対象にしたジャズであるが、気軽にきくにしては編曲も重厚かつ技巧的で肩がこるかもしれない。しかしこういう曲を書き演奏しているのはエリントンひとりで、その野心と境地は他に求められない。「スキン・ディープ」はベルソンの自作でドラムを主体とした最も派手なジャンプ・ナンバーである。「ザ・ムーチ」に「パーディド」「A列車で行こう」はもともとエリントン楽団のレパートリー曲で、ここではコンサート或いはLP向きのゆとりのあるアレンジによる力演で、後者二曲にはベティ・ローシュのモダンなスキャット入りのヴォーカルがフィーチャーされている。全体にゴンザルヴェス、カーネイ、ハミルトン、プロコープ、アンダーソン、ナンス、ティゾール、ジャクソンなども充分ソロを堪能させてくれる。ある意味ではここ十年間のジャズの一つの傾向をクローズ・アップした現代のジャズの縮刷版として一聴をおすすめしたい。

 (『レコード藝術』54年11月号)

 

出典はこれ。

 

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野口久光ベストジャズ(1)

野口久光ベストジャズ(1)

 

  

 

まずはじめに、ややこしい 文献学的な整理をしておこう。

『Ellington Uptown』のほかに、タイトルが似ている『Hi-Fi Ellington Uptpwn』というアルバムがあるが、これは単に前者の音質を改善しただけのものではない。まずこの点に注意。51年と52年に録音され('51, 12/7, 12/11, '52, 2/29, 6/30, 7/1(「リベリア組曲」は'47, 12/24))、52年に発表されたオリジナル盤の収録曲は全5曲。

 

Uptown (1951-1952)

Uptown (1951-1952)

 

A1  Skin Deep
A2  The Mooche
A3  Take The "A" Train

B1  A Tone Parallel To Harlem (The Harlem Suite)
B2  Perdido

その後、56年にB1の「ハーレム組曲」が「コントラバーシャル組曲」に差し替えられ、『Hi-Fi Ellington Uptpwn』として発表された。

 

ハイ・ファイ・エリントン・アップタウン+1

ハイ・ファイ・エリントン・アップタウン+1

 

A1  Skin Deep
A2  The Mooche
A3  Take The "A" Train

B1  Perdido
B2  Controversial Suite
  -1. Before My Time
  -2. Later

 

そして2004年、差し替えられた「ハーレム組曲」を復活させ、さらに47年録音の「リベリア組曲」が追加された、いわゆる「完全盤」が発表された。

 

Ellington Uptown

Ellington Uptown

 

1  Skin Deep
2  The Mooche
3  Take the "A" Train"
4  A Tone Parallel to Harlem (Harlem Suite)
5  Perdido
6  Controversial Suite Part 1: Before My Time
7  Controversial Suite Part 2: Later
8  The Liberian Suite: I Like the Sunrise
9  The Liberian Suite: Dance No. 1
10  The Liberian Suite: Dance No. 2
11  The Liberian Suite: Dance No. 3
12  The Liberian Suite: Dance No. 4
13  The Liberian Suite: Dance No. 5

一般的には、1枚で聴ける曲が増えたことを喜ぶべきなのかもしれない。しかし、この「完全盤」の#8-13は居心地が悪い。というのも、まさにこの作品の録音時期の1951年といえば、「ホッジスの乱」によってオケのメンバーの大きな交代が起こった時期だからだ。この交代を跨いだ録音が並列的に収録されているのは違和感があるなあ。この「完全盤」、管理人にとっては「完全(?)盤」なのだ。

 

「ホッジスの乱」について簡単に説明しておこう。

 

 

 1951年、ホッジスは自分のバンドを率いるためにソニー・グリーアとローレンス・ブラウンとともにオケを離れた(「ホッジスの乱」)。リード・アルト、ドラム、そして頼りになるトロンボーンソリストを失ったエリントンは非常手段に出た。

バンドからのヘッド・ハンティングである。

 

 

この危機を救ったのがほぼ同じ年の友人、ファン・ティゾール。エリントンオケを退団後、ティゾールはハリー・ジェイムスバンドに在籍していたが、このエリントンのピンチを救うため、ウィリー・スミスとルイ・ベルソンとともにエリントンオケに帰還した(「ジェームス大強奪(The Great James Robbery)」)。ウィリー・スミスといえば、スウィング時代の3大アルトの1人。

オケを去った3人の損失は大きかったが、その埋め合わせもそれに見合ったものといえるだろう。特にドラムの交代は大きかった。

 

このときの人事異動をまとめておこう。

(OUT)Johnny Hodges, Sonny Greer, Larence Brown

(IN) Juan Tizol, Willie Smith, Louie Bellson 

 

エリントンオケにグルーヴ・メイカーとしてのドラムが導入されるのはこの作品が初めて。管理人はそう考えている。ベルソンの加入により、エリントンはオーケストラのサウンド、特にドラムの役割を考え直したに違いない。それほどまでにベルソンのドラムは圧倒的だ。今聴くと華やかすぎるというか、「Skin Deep」のような長いドラムソロは「こういうの聴きたいわけじゃないんだよなあ」と思ってしまうが、グルーヴへの貢献という面においてこれまでのエリントンサウンドでここまでドラムが主張をしたことはない。エリントンの喜びは選曲にも現れている。 あえて「The Mooche」「A列車」なんていうオケの定番曲を再録しているのは、新しいサウンドの提示にほかならない。「A列車」の歌バックのブラシだけ聴いてもグルーヴ感がケタ違いだ。ダイナミクスの緩急、テンポ・チェンジなんでもOK。エリントンのドヤ顔が目に浮かぶようだ(ちなみに「Perdido」も収録されているのは、この人事の功労者、ティゾールを称えてのことではないだろうか。この「Perdido」では、ポール・ゴンザルヴェスとジミー・ハミルトンのユニゾン・ソリも聴ける。ここではテナーとクラリネット)。

 

だからこそ、「リベリア組曲」が浮いて聞こえるのである。エリントンが生きていたらこんな編集は絶対しなかったと思う。ただ、ではこの「リベリア組曲」がまったくの蛇足かというと……リスナーの立場からは、潔く即断することは難しい。というのも、この「リベリア組曲」、CDで簡単に入手できるのはこの『Ellington Uptown』完全(?)盤のみ。イタリアや海賊盤などではCDで単独で発売されており、今でこそMP3音源などで手軽にアクセスできるようになったが、完全(?)盤の発売までは気軽に聴けない音源だった。その意味では、この抱き合わせは確かに嬉しい編集なのである。

 

リベリア組曲自体は、組曲ものとして聴き応えのある作品。レイ・ナンスのバイオリン(「Dance No.3」)や珍しくビブラフォンがフィーチャーされていたり(「Dance No.2」。ただし演奏はソニー・グリーアじゃなくてtbのTyree Glenn)、ケレン味たっぷりのソニー・グリーアのティンパニなど、色彩豊かであることは間違いない。

Liberian Suite

Liberian Suite

 

 

 

 ベルソンのドライブ感は停滞・下降気味だったオーケストラのカンフル剤として実に効果的だった。ベルソンのドラムは、まさにオケを次の次元にドライブさせることになる。『New Port '56』の劇的なカムバックは、ベルソンのカンフル剤があったからこそだろう。単にポールの調子がよかったから、だけではないのである。

 

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