Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

読み継がれていくべき「名著」の予感。 -『すごいジャズには理由(ワケ)がある』

いい本を読んだときにいつも思うこと。

それは、「ああ、この本、もっと早く出会いたかったなあ」というくやしさ。

久しぶりに味わいました。

 

 

ピアノの話だからあまりわたしには関係ないかな、とか、売れてる本だから入門的な本でしょ、とかのつまりは読まない理由を創り上げて敬遠していた。それが、ふと、最近またトランペットを吹くようになってから偶然手にした本。

………変な意地は捨てたほうがよい。

この本、とても面白かったです! 読者層としては、ジャズを聴いていて、楽器も少し触って、少しだけ楽譜も読める人に最適。その意味で、わたしは読むべき時に出会えたのかもしれない。

 

この本で一番勉強になったのは、「マイルス・デイヴィスーーモティーフ的思考」という章。マイルスのソロは、コード構成音の分析とかそういう方針ではなく、メロディ、テーマに潜む「モティーフ」を展開してソロを構成している、という説明にぞくっとした。

アドリブ初心者に向けられるアドバイス、「まずはメロディーフェイクからやってみなよ」という言葉、実はとても射程が長いアドバイスだったのだ。

このモティーフ的な発想によるアドリブは、レスター・ヤングもそうだったし、エリントンとストレイホーンにも大量に見つかるよ、Satin Dollはその典型、と書かれています。ここ、もう少し掘り下げてほしかったなあ。

 

最後に、終章の「ジャズにはいつも open space がある」から引いておく。

 

ー以前からずっと知りたかったことをお尋ねするいいタイミングが来たように思います。「いまはいま」ーージャズというのはそういう音楽であるわけですけど、フィリップさんにとってのジャズの定義とはどういうものですか?

PS うーん、これはむずかしい……ものすごくむずかしい……。まずひとつは……即興。即興じゃないものはジャズじゃない。そして第二に……おそらく特定のタイムの感覚。そして第三が……特定の歴史の背景、かな。でもジャズを定義するのは本当にむずかしい。

 

これ、実に興味深かった。

ジャズの定義とは十人十色で、結論があるとは思わないけれど、この質問にどう答えるかで、その人のジャズ観、音楽観がわかる。その意味で、ストレンジさんの考えが出てるのが実に興味深い。

わたしが注目したのは、「ハーモニー」と「インタープレイ」に言及せず、歴史の背景を挙げているところ。いまのわたしの感覚では、タイム感がジャズに不可欠な要素である、というのは完全に同意するが、即興ということにはそれほどこだわらなくなってきている。これはエリントンとかウェザーリポートを聴きすぎたせいかもしれない。あ、でも「即興」というのが、アドリブの複雑なラインでなく、インタープレイまで含意するものだとしたら同意です。

いずれにしても、「ハーモニー」に関しては、ジャズが唯我独尊、というわけではないということなんですね。まずクラシックに研究蓄積があると。勉強になりました。

蛇足ですが、後期のビル・エヴァンスの評価について、マイク・モラスキーさんと評価が分かれるところも楽しく読んだ。

 

それにしても、アルテスはいい本出しますね。音楽関係の本でアルテ巣の本を読んで外れることはありません。これからも、もっとジャズの本を読みたいです。

 

日高さん、いい本に関われてよかったね。