Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

『My People』について、少しだけ。ザヴィヌルとエリントン。

My People

My People

 

 

う~ん、先日の『Sacred Concert』に続いて評価が難しい1枚です。
そして、その音楽よりも文化的な影響が大きいところも同じ。

 

 

とりあえず、野口久光氏の紹介文をみてみましょう。 

 

f:id:Auggie:20190221040307j:plain

野口久光ベストジャズ(2)

野口久光ベストジャズ(2)

 

 

野口久光氏の紹介文

『マイ・ピープル』
       デューク・エリントンFlying Dutchman
 これは数年前(コンタクト)レーベルで出たもの。六三年に奴隷解放百年を記念してシカゴで開かれた、アフロ・アメリカン民族発展のあとを顧みる博覧会の行事として催されたコンサートを録音したもの。このコンサート・ショーを依嘱されたエリントンがショーの原案作成から作曲、演出を兼ねたが、オーケストラは、一部エリントニアンを入れてビリー・ストレイホーンが編成、ジミー・ジョーンズが指揮に当たっている。デュークは新曲を組み合わせた組曲風の構成の中で自らナレーターの役を演じ、教会における牧師と信徒との呼応形式を踏んで、黒人の歴史と自由への闘いに黒人が誇りとする先人の業績、その勇気について語り、黒人の誇るべき音楽としてブルースを挙げている。音楽界ばかりでなく黒人のすぐれた先駆者を讃え、マーティン・ルーサー・キングに捧げられた曲もあり、エリントン・カラーのよく出た演奏もすばらしい。またジミー・グリッサム、ジミー・マッフェル、リル・グリーンウッド、ジョーヤ・シェリルらのヴォーカルもすばらしい出来で、全体に充実したききものになっている。
                  (『レコード藝術』70年8月)

 

 文献学的整理(ジャケットあれこれ)

 この作品、ジャケットが複数あることでも有名です。

例えば、わたしが初めててにしたのはこれ。

My People

My People

 

 

もちろん、当初リリースされたのはこれ。

Duke Ellington's My People

Duke Ellington's My People

 

 

そして、さらに近年、「The Complete Show」として、こんなものも発表されました。

エリントンファンには、これがいちばん購買意欲を刺激するかもしれません。

 

My People

My People

 

 

出演者について。

さてこのアルバム、「Duke Ellington's」という冠がありますが、エリントンはピアノを弾いていません。ピアノはストレイホーン。エリントンはナレーション、ディレクターという立場にとどまっています。そして、参加するエリントアンは出演者の半分超。

…これはどう考えるべきなのか。『Duke's Diary』など、文献学的なクロニクルなデータを参考にすると、この時期はあまりに多忙だったために、当日エリントンは出演できなかった。その代役としてのストレイホーンおよびエリントニアン。

しかし、別の角度から考えると、ほかの可能性も考えられます。政治的スタンスから考えると、エリントンは非常に慎重な立場を取ります。このような政治的なイベントに自分が出席することの意義・影響について自覚的であったエリントンは、あえてストレイホーンをピアニストにします。ストレイホーンは、個人的にキング牧師とも親交があったため、この企画には前向きな姿勢でした。

 

ザヴィヌルとの関係も興味深いんです。

ザヴィヌルには、まったく同じタイトルの 作品があります。

 
My People

My People

 

 

よく誤解されていますが、この冒頭の「Introduction to A Mighty Theme」でサンプリングされているエリントンのナレーションは、上記エリントンの『My People』(DE-MP)に収録されているナレーションではありません。一度聴いてみれば明らかですが、DE-MPは、黒人音楽の伝統であるコール&レスポンスを重視した、アジテーション的な味付けのあるナレーションですが、ザヴィヌルの『My People』(以下、Z-MP)は内省的なインタビュー。別物であることはすぐわかります。

具体的な引用元、元ネタについては、過去の記事で tas1014 さんに指摘していただいております。参考までに。

 

 

では、ザヴィヌルがどれくらい「自覚的に」エリントンから影響を受けたのか。

これはよくわからないんですよ。状況証拠はたくさんあります。tas1014 さんも軽く触れられている「Come Sunday」の話とか、ウェザー・リポートでカバーしている「Rockin'in Rhythm」とか。

これについては、例えば山下邦彦氏のこの本とか。少しクセのある本ですが、実に興味深いドキュメンタリーです。

 

ウェザーリポートの真実/山下邦彦 編

ウェザーリポートの真実/山下邦彦 編

 
坂本龍一・音楽史

坂本龍一・音楽史

 

 

エリントンとザヴィヌルの親近性/類似性を挙げると以下の通り。

 

・クラシックを土台としながらも、ピアノ・作曲技法を独学で学ぶ

・プレイヤーの個性をもっとも重視するが、その音楽の中では、アドリブが最重視項目ではない 

・マイルスと相思相愛

・享年75歳

 

反対に、相違点としては、「後世の評価が雲泥の差であること」とか、「新技術・テクノロジーへの積極性」が挙げられます。

とにかく、エリントンとザヴィヌルについては、上記記事のtas1014 さんのコメントがすべてなのです。

 

 

あと、この2人については、後藤雅洋氏のこの記事も興味深いです。というか、林建紀氏の考察が興味深いです。

 

 

ただ、「ブラントン・ウェブスター・バンド=ウェザー・リポート」説は「なるほど!」と感じながらも、「…でもそれって、偶然じゃないの?」と思うところがあるのも事実なんです。 これも今後の研究課題と言えるでしょう。

 

 ごめんなさい、今日の記事、本当はもっと長くて気合の入った記事だったのですが、わたしの手違いで 、全部消えてしまいました。なので、もう一度書くやる気が失せて、書き記しておくべき項目だけをそっけなく記した記事になってしまいました。はあ…。

…失ってしまったもののことを考えて気落ちするのは、もうやめます。気を取り直して、もう一度、別の角度からこの問題を考えることにします。そうだ、ようやくtas1014 さんのコメントをまとめる時が来たのかもしれません。

 

Night Passage

Night Passage