小川隆夫氏のジャズマン・インタビュー集から。
この本、何度も見ちゃうなあ、興味深い小ネタが満載です。
・ジョニー・グリフィン(Johnny Griffin, ts, 1928 - 2008)
クリフは高校の後輩でね。わたしたちはシカゴのデューセイブル高校の出身で、彼と同級生だったのがジョン・ギルモアとジョン・ジェンキンスだ。この高校、優秀だろう? わたしがひと足早かったが、ほぼ同じ時期にみんなニューヨークに出てきた。これはその直後にブルーノートで吹き込んだアルバムだ。アート・ファーマーとソニー・クラークだね? いかにもブルーノートらしいハード・バップ・セッションじゃないか。
クリフは、わたしたちサックス仲間のうちで一番の理論派だった。楽理を勉強していたから、理詰めでいろいろなことをいってくる。こちらは感覚優先なんで、やつにはまいったよ(笑)。これは褒めているんだからね、間違えないでくれよ。
このアルバムを聴いても、コード進行にこだわってテナーを吹いている姿が目に見えるようだ。この時期はハ
Iモニーの研究に余念がなくて、なんとか普通とは違うハーモニーを使おうとさまざまな工夫を凝らしていた。〈ソフィスティケイテッド・レディ〉なんか、作曲したデューク・エリントンが聴いたら怒り出すかもしれない。かなりいじった跡が認められる。ただしそれなりに素晴らしい内容になっているから、やっぱりクリフは凄いということになるんだけれどね。(八六年)
・ジョージ・コールマン(George Edward Coleman, ts, 1935 - )
クリフが初期に残したレコーディングだ。寛いでいる印象が強い。彼はハードなプレイをすればするほどリラックスできるタイプでね。演奏はテンションが高いのに、
気分はとてもリラックスしている。わたしはめったにそういう状態にならないが、こうなったときの演奏はたいてい自分でも納得できるほど素晴らしい。それがクリフはしょっちゅうだった。羨ましい限りだ。
〈クリフ・クラフト〉がいい例だ。豪快なのに、細かいところまで丁寧に吹いている。余裕がないとこうはいかない。夢中になって吹いているようで、醒めたところもある。ホットでクール。こういうプレイはなかなかできるもんじゃない。力でぐいぐい押しているのに、必要なところでは抜群の歌心も発抑する。クリフはもっと有名になってよかった。実力はあったし、ひと柄もいい。演奏もこの時点で名人芸に近かった。(八八年)
以下は小川隆夫氏のコメント。
(冒頭)
クリフォード・ジョーダンの持ち味は豪快なブローとブルース・フィーリングにある。そのことを見事な形で披露したのがこの作品。ホレス・シルヴァー・クインテットのメンバーにソニー・クラークを組み合わせたユニットである。ジョーダンとアート・ファーマーのフロントが織りなす柔軟性に富んだプレイ。それがハード・バピッシユな響きを生み出す。
(まとめ)
ジョーダンが理論やハーモニーにこだわっていたとは知らなかったし、しろうとの耳には〈ソフィスティケイテッド・レディ〉も普通の演奏にしか聴こえない。しかし、聴くひとが聴けばハーモニーがかなりいじられているのだろう。ジョニー・グリフィンの話に出てくるジョン・ジェンキンスは無名だが、ブルーノートやプレスティッジにリーダー作がある。彼はすぐに活動をやめてしまったものの、九〇年代初頭にジョーダンのオーケストラでカムバックを果たす。これも友情がずっと続いていた証だ。ジョージ・コールマンはジョーダンから賄賂でももらったのでは? と思うぐらい(笑)べた褒めだった。でも、これが彼の忌憚のない意見のようだ。「ホットでクール」とはよくぞいったもの。まさにこの作品のジョーダンがそれである。