Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

You Better Know It! ユニークでアーシーなニーナのエリントンカバー。

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George Shearing, Nina Simone, Duke Ellington and Buddy Rich

 

野口久光氏のこの本を読み返してます。

 

野口久光ベストジャズ(1)

野口久光ベストジャズ(1)

 

 

なんだかんだいっても、60年代における日本のエリントン受容を考える上でこの本は貴重。いわゆる邦盤リリースの感覚を体験できるからです。前回は『Afro-Bossa』でした。

 

 

今回はエリントン自身の作品ではなく、ほかのミュージシャンによるカバー作。

幅広い音楽ジャンルのファンから支持されるニーナ・シモンの1枚です。 

 

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野口氏が紹介しているのはこのジャケットですが、一般的にはこちらの方が有名ですよね。わたしもこれで聴いてます。 

 

 

ニーナ・シモン/エリントン・ソング・ブック(Colpix)
 ニーナはジャズ・ヴォーカリストなのか民謡歌手なのか、そんなことは決める必要もあるまいが、とにかく新進歌手の中で彼女はずば抜けたパーソナリティの持ち主であることはたしかだ。クラシックの音楽教養をもち、自らピアノを弾きながら歌い、独得のムードを創り出す彼女のオリジナリティ、独創性、行動力は相当なものだとおもう。エリントンの有名無名の曲を十一曲あつめて歌ったこのLPも彼女白身の選曲、編曲、ピアノ、歌という各分野を総合して立派な創作的な仕事といえるし、これだけききごたえのあるヴォーカルLPはざらにないとおもう。彼女の歌もジャズ風であったり、ポピュラー的になったり、ゴスペル風だったり、クラシック的に歌ったり、らよっとした七変化ぶりをみせるが、こうなるとどれが本当のニーナなのかわからなくなる。「アイ・ガット・イット・バッド」「ソリテュード」のような有名曲から「アイ・ライク・サンライズ」やイギリスあたりの古曲のような「メリー・メンディング」など、あるいは神妙にあるいはユーモアを利かせて歌う。マルコム・ドッズ合唱団とオーケストラのアレンジも巧みなもの、全体としてエリントンの曲がゴスペルや民謡調にきこえる(「ザ・ギャル・フロム・ジョーズ」)のは全く不思議である。(『レコード藝術』63年9月)

…いつもながらのエリントン賛美のふわっとした紹介文ですが、大まかな方向はわたしも同じです。このカバー作、まず選曲がおもしろい。全11曲のうち、いわゆるエリントン・スタンダードは半分くらい。

A1 Do Nothin' Till You Hear From Me
A2 I Got It Bad
A3 Hey, Buddy Bolden
A4 Merry Mending
A5 Something To Live For
A6 You Better Know It

B1 I Like The Sunrise
B2 Solitude
B3 The Gal From Joe's
B4 Satin Doll
B5 It Don't Mean A Thing

 「Hey, Buddy Bolden」「Merry Mending」「You Better Know It」「I Like The Sunrise」「The Gal From Joe's」はなかなか渋い選曲で、これはニーナ・シモンの音楽的なバックグラウンドとでもいうべき、ゴスペル的なアーシーさがよく現れていると思います。パワフルな歌唱とあいまって、ジャズと言うよりもブラック・ミュージック。

ニーナ・シモンといってわたしが連想するのは、そのユニークなピアノ。特にソロが魅力的。「垂直」「水平」という分類も意味をなくすような音の波に圧倒されてしまいます。ウラを強調するわけでもなく、ハーモニーが美しいわけでもなく、メロディアス、というわけでもありません。ジャズというよりもクラシック、でも土着的なフィーリングを感じさせるピアノを聞くと、不思議な感覚に陥ります。

この1枚でもそんな瞬間を体験できる瞬間があって、それはA面最後の「You Better Know It」。ワンコーラス歌った後に始まる怒涛のピアノソロ。バッハの練習曲のような幾何学的・一筆書きのフレーズに翻弄されていると、そのまま歌に戻ってエンディングへなだれ込みます。…このソロ、ジャズ教室とかだったら「ブレスの場所がない!」なんて先生に怒られそうなソロです。でも、これはこれでいいんです。こういう音の連なりでしか表現できなかったグルーヴが彼女の中にあったのでしょう。

 

You Better Know It (Remastered)

You Better Know It (Remastered)

 

冒頭の写真*1は59年のマディソン・スクエア・ガーデン・ジャズ・フェスティバルのもの。このときの出会いが、その2年後の本作につながったのかもしれません。 

エリントンを聴きたい、と思って聴く1枚ではないかもしれませんが、ブラック・ミュージックとして楽しめる1枚。その意味で、アルバム最後の「It Don't Mean A Thing」はこのアルバムを表すのにぴったりな1曲。

 

It Don't Mean A Thing (Remastered)

It Don't Mean A Thing (Remastered)

 

  

 

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カバーしてくれてありがとう。……チュッ!

……さてこの音楽、録音は61年、アメリカでのリリースが62年、日本での発売が63年。ニーナ・シモンの話からは離れますが、この62~63年といえば、エリントンが異種格闘技戦に明け暮れていた頃。1人のピアノ・プレイヤーとして、「来るものは拒まず」なオープン・マインドでどんな企画にも断らずに参加しまくっていました。

 

次は「サッチモ ✕ エリントン」後半戦です。

 

 

......どうでもいい話ですが、このジャケット、LPだったら魔除けになりそうです。

 

Sings Ellington [12 inch Analog]

Sings Ellington [12 inch Analog]

 

*1:Madison Square Garden Jazz Festival, NEW YORK, 1959. George Shearing, Nina Simone, Duke Ellington, and Buddy Rich