Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

エリントンとザヴィヌル。その影響関係と距離感。(その1)

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今回の記事から数回にわたって、エリントンとザヴィヌルの関係をまとめておこうと思います。このエリントンとザヴィヌル問題は奥が深い。わたしは、エリントンについて考えることは「ジャズ」について考えることと同義だと思っていますが、同様のことはザヴィヌルについてもあてはまるのではないでしょうか。50年代にコンボ、バップが流行したときに、エリントンはある意味で乗り越える対象・批判的契機として存在していましたが、ザヴィヌルは70年代において、モード、フリーを経て停滞していたジャズをエレクトリック・サウンドの導入により別次元に導きました。また、両者ともほかのミュージシャンとは別格の扱いを受けながらも、一般的・日常的には好んで聴かれないミュージシャンであり、「ジャズ」=「アドリブ」「フリー・インプロヴィゼーション」という概念に懐疑的な立場をとっており……と、少し先を急いでしまったかもしれません。

ゆっくり歩き始めることにしましょう。

 

エリントンとザヴィヌルについては先日も軽く触れました。

 

 

ザヴィヌルにも『My People』というアルバムがありまして、冒頭にエリントンの語りをサンプリングしていることから明らかなように、エリントンへの目配せがあることは間違いありません。では、そのリスペクトはどれくらいなのか。これをみていきましょう。

 

そもそもの始まりはこの記事です。

 

 

ウェザー・リポートは、ザヴィヌルとショーターの双頭・エレクトリック・ジャズ・フュージョンワールドミュージック・コンボであり、ザヴィヌルがそのサウンドのトータル面、音楽全体を統括し、ショーターがその作曲の才能を爆発させたバンドです。この時期のショーターは本当に素晴らしい。60年代のボブ・ディラン預言者として、後年ノーベル文学賞を受賞するほどの射程を備えたリリックを宇宙から受信したように、ショーターもバークリーメソッドとは異なる文法体系を宇宙から受信したとしか思えないような曲を発表します。……カバーなんか、する必要はない。ウェザー・リポートは『8:30』まで、演奏する曲はすべてオリジナル。他人の曲をカバーすることはありませんでした。それが破られるのが80年のライブ盤、『Night Passage』。このときカバーされるのがエリントンの「Rockin'in Rhythm」なんです。

 

Night Passage

Night Passage

 

 

WRがエリントンのカバー!? 

これは tas1014さんが的確にも「世渡り的な思い付き」とまとめられている程度の演奏、といってしまってもいいものだと思われますが、わたしは初めてこの演奏を聞いた時、「ああ、これだったのか」と納得したことを覚えています。

というのも、高校時代に愛読した『ビッグバンド完全マニュアル』(角田健一ビッグバンド監修)に寄稿されている加藤総夫先生のエリントン推薦盤に、こんなコメントがあったからです。

 

Best Of Duke Ellington: Original Capitol Recordings

Best Of Duke Ellington: Original Capitol Recordings

 

 

ビッグ・バンドの時代は大戦終了とともに終わった。主だったエリントニアンが脱退し、RCAとの契約も消え、エリントンはキャピトルと契約。「エリントン最低の時代」と評価されることが多いが、今の耳で聴いてみるとこれが凄い。この時代の録音はほとんどCD化されていない。このベスト盤と、ピアノ・トリオの『ピアノ・リフレクションズ』くらいか。40年代からさらにつき進んでしまったこの変態美。禁じ手破りの嵐。これより過激でしかも美しい「キャラヴァン」はその後40年間出ていまい。この白熱の「ロッキン・イン・リズム」にはウェザー・リポートも土下座するだろう。

 

このコメント、初めて読んだときは、「なんでウェザー・リポートが出てくるんだろう?」と疑問に思いました。その理由が『Night Passage』なんです。なるほどなあ、と。

 

余談ですが、加藤先生が寄稿されたエリントンに関する文章が、以後のわたしの音楽体験を変えてしまったといっても過言ではないのです。特に、12枚のエリントン音源に付けられたコメントは、「寸鉄、人を刺す」なディスク・レビューの見本。これより後年のNAXOSのエリントン初期作のレビューと並んで、わたしの理想のひとつです。

 

ビッグバンド完全マニュアル (ジャズライフ別冊)

ビッグバンド完全マニュアル (ジャズライフ別冊)

 

 

この「12枚のエリントン音源に付けられたコメント」は、加藤先生の『ジャズ・ストレート・アヘッド』に収録されています。

 

ジャズ・ストレート・アヘッド

ジャズ・ストレート・アヘッド

 

 

「ところで、加藤総夫って誰?」というナイーヴな方は、拙ブログ本館の次のページをご参照ください。

 

 

 

そうそう、キャピトルのエリントンは、その後 Mosaic からコンプリート盤、というかマニア・コレクター向けのBOXが発掘されました。

 

Complete Capitol Recordings

Complete Capitol Recordings

 

 

はっきいって、エリントンマニア、エリントン中毒者(トン中)以外が手を出すべき音源ではありませんが、逆にエリントン・ファン(特にそのハーモニー、変態美に惹かれる人)にとっては一生モノの宝石。Mosaicというレーベルは本当に素晴らしい、信頼できるレーベルで、一生付き合っていけるミュージシャンと出会えたら、とりあえずこのレーベルの音源をチェックしておくと損はないはずですよ。(あと、こんなことをいうのは無粋かもしれませんが、投資の対象としても有望かもしれません。)

 

閑話休題

 

で、この「Rockin'in Rhythm」はこの日だけの演奏だけでなく、この時期のライブセットのレパートリーだった、ということがわかるのが発掘されたライブ音源なんです。

 

The Legendary Live Tapes 1978

The Legendary Live Tapes 1978

 

 

これにも「Rockin'in Rhythm」が収録されており、しかもそのことについてのピーター・アースキンのコメントもある、と。そして繰り返しになりますが、その単なる報告が、このわたしの記事です。

 

しかし、単なる備忘録くらいの気持ちで書いたこの記事に、tas1014さんから以下のコメントをいただきました。

 

  いよいよジョー・ザヴィヌルのお話が始まる(?)のですね。「My People」や「Come Sunday」なども出てくるのでしょうか。楽しみに待っています!今回は予告編のような感じですが、ピーター・アースキンのコメント、大変興味深かったです。というか、少々脱力したのも確かです。アースキンによれば、「Rockin’ in Rhythm」の選曲はザヴィヌルの世渡り的な思い付きであって、内発的な音楽的動機によるものではなかったとも受け取れますね。ウェザー・リポートによる同曲の演奏には(私のようなジャズの初心者でも)やや物足りない(喰い足りない)ところを感じていたので、なるほどそうだったのか!とほとんど納得してしまいそうになりました。

 

このコメントをきっかけに、tas1014さんとのコメント欄でのやり取りが続くのですが…… さすがに長くなりすぎましたので、続きは次回に。

 

Best Of Duke Ellington: Original Capitol Recordings

Best Of Duke Ellington: Original Capitol Recordings

 
THE DUKE PLAYS ELLINGTON [LP] [Analog]

THE DUKE PLAYS ELLINGTON [LP] [Analog]

 
Complete Capitol Recordings

Complete Capitol Recordings

 

 

ジャズ最後の日

ジャズ最後の日

 
ジャズ・ストレート・アヘッド

ジャズ・ストレート・アヘッド