Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

瀬川昌久 introduces 平賀マリカ。

前回までの6回にわたって、瀬川氏が編んだエリントンベスト盤の解説を見てみた。

これでやっと瀬川氏から解放される…と思っていたのだけど、CD棚を整理していたらこんなものを見つけてしまった。そうだ、そういえばこの解説も瀬川先生がしていたんだっけ。

 

Sings With The Duke Ellington Orchestra

Sings With The Duke Ellington Orchestra

 

 

 

平賀マリカ渾身の新作完成
 最近の一作ごとに意欲的なテーマに取り組んで高い人気と評価を得ている平賀マリカが今回新たにデューク・エリントンの作品に挑戦し、しかも現存するデューク・エリントン楽団の演奏で歌うアルバムを完成させた。デイビッド・マシューズのジャズ・アレンジでバート・バカラックを歌い、続いてナット・キング・コールの名唱を蘇生させた彼女が、初のビッグバンドとの共演を企画して一年余、厖大な数の候補曲をきき込んで厳選し、エリントン楽団の指揮者トミー・ジェイムスらのアレンジを得て、自ら渡米してバンドと共演、録音した成果が本アルバムに結集した。平賀マリカのジャズ・ボーカリスト活動歴の集大成ともいえる本作は日本人歌手として始めてエリントン音楽に本格的に取り組み、その魅力を最大限に引き出す事に成功した金字塔的なアルバムといえるだろう。

 

エリントン音楽の歌唱的魅力
 デューク・エリントン(1899~1974)が生前発表した作品数は録音されただけでも1000曲以上あるだろう。その中最もポピュラーな「A列車で行こう」「スイングしなけりゃ意味ないね」「キャラバン」「アイム・ビギニング・トゥー・シー・ザ・ライト」「サテン・ドール]など素人でも馴染んでいるメロディーの曲は、今日も至るところで演奏され歌われている。エリントン音楽の特色は、その殆どがエリントンのビッグバンドやコンボによるインストルメンタル(器楽曲)として作編曲され、その一部が歌手によるボーカル付きで録音されていることである。従って「A列車で行こう」は、エリントン楽団のオープニング・テーマ曲にもなって演奏され続けたが、完全な唄物録音としてはベティ・ロシエの歌唱版しかなく、レイ・ナンス(tp)が時折コミカルに歌った程度だ。しかし今日あらゆるビッグバンドや歌手にとってこの曲がプロになる登竜門のような存在となっており、エリントンのオリジナルに対していかに解釈し特色を出して演奏し歌うかが問われている。
 幸い平賀マリカは今回エリントン音楽の創作者デュークの伝統をつぐ現存エリントン楽団の演奏を得たので、今までエリントン音楽をきいていない人にとって本作は最上のエリントン入門書ともなり得るだろう。
 エリントン音楽のもう一つの特色は、エリントンが自分のバンドのソリストのプレイをフィーチュアするために書いた沢山の美しいバラードがあることだ。その旋律が余りに美しいために後に歌詞が付けられて多くの歌手が競って歌うバラードになっている。本アルバムの「ソリテュード」「イン・ナ・センチメンタル・ムード」「イン・ア・メロウトーン」などがその好例である。又リズミックな曲やジャンプ・ナンバーの中にも、その魅力にひかれて歌手が自分で詞をつけて歌うようになることもあった。本作(8)に収録した「アイム・ゴナ・ゴー・フィッシン」は作詞の才に富むペギー・リーが自らの詞で新しい曲名をつけて歌って大ヒットした。この曲を歌う日本人歌手は平賀マリカが始めてで、こういう隠れた傑作を見付けた彼女の畑眼に敬意を表したい。「ジャスト・ア・シッティン・アンド・ア・ロッキン」もエリントン楽団のサウンドを得たボーカルとしては恐らく本作が世界初の企画になる。エリントンを十分にきき込んできたファンにとっても本企画が新しいコレクションになり得るだろう。
 現存エリントン楽団は2011年末にも来日し、今は亡きデュークがかつて新潟震災時にチャリティ公演を実行したスピリットを継承して復興支援の特別プログラムを組んでコンサートにのぞむときいている。この機に本作アルバムが完成したことはエリントン音楽讃歌の気運を一屑広めることに繋がるだろう。

 

瀬川先生大絶賛。

各曲の解説も見てみよう。 

 

歌唱曲について

1. I'm Begginning To See The Light
 アイム・ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト
1944年エリントン楽団がジョーヤ・シェリルの唄で発表すると同時に、ハリー・ジェイムス楽団のキティ・カレンの唄がヒットした。「今までは月の輝く空や蛍などを見ようとも思わなかっだのに、今はあなたの瞳に星が輝き明りが見える…」という愛の喜びにあふれた唄。エラ・フィッツジェラルドも57年にエリントン楽団と歌った。平賀マリカはバンドのリズミカルなサウンドにのって、中間の軽いスキャットを含めてスウィンギ一に歌い上げる。

 

Complete Harry James in Hi-Fi

Complete Harry James in Hi-Fi

 

 

2. Drop Me Off In Harlem

 ドロップ・ミー・オフ・イン・ハーレム
エリントン楽団が1933年に器楽曲として録音して評価され、チャーリー・バ一ネットが愛好して自分のバンドでフィーチュアして有名になったが、唄がついたのは、エラ・フィッツジェラルドがエリントン楽団と1957年録音したのが最初だろう。61年にルイ・アームストロングが自分のオール・スターズでデュークをゲストに歌った。ここでは、バンド演奏にも重点がおかれ、tpソロとアンサンブルが前奏してから平賀のボーカルに入り、間奏部もtpのハイトーンでハーレムを想起させ、平賀マリカのうた心を駆り立てる。

 

エラによる録音はこれ。

この録音、エラのボーカルもいいけど、何と言ってもレイ・ナンスのソロ!

これがバツグンだ…! レイ・ナンスは、「この曲はこのフレーズ以外考えられない」 という「ぴったりとはまった」ソロを録音する才能がある。「A列車」のソロなんかその典型。『ザ・ポピュラー』でクーティが吹いてるソロも結局レイ・ナンスのフレーズだ。

この「ドロップ・ミー・・・」のソロは、レイドバックのタイム感覚が見事。

Sings the Duke Ellington Song Book

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3. It Don't Mean A Thing If It Ain't Got That Swing

 スウィングしなけりや意味ないね
余りにも有名なエリントンの代表曲で、1932年アイビー・アンダーソンの唄で初吹込して以来、唄に演奏にあらゆる歌手やバンドが手にかけてきた。バンド演奏がエリントン調のピアノのイントロから始まり、平賀の心地良いスウィング・ボーカルの間にtpのワウワウ・ミュートと彼女のスキャットが気分を出す。

 

アイヴィ・アンダーソンの元ネタは、たとえばこれ。

 

 

4. In My Solitude
 ソリチュード
エリントンの数あるバラードの中でも、「孤独の寂しさ」をメロディとサウンドの無類の高い音楽性で表現した傑作。1934年初吹込で忽ち評判になったが、ボーカルは1945年アル・ヒブラーと女性トリオが歌ったのがエリントン楽団では唯一つ。
一般にはビリー・ホリデイやエラ、ジューン・クリスティ、サラ・ヴォーン始め数多い。「寂しさに付きまとわれ過ぎ去った日々の決して消えることのない思い出に悩まされるjという心情が歌詞とメロディに一体化して表現されている。平賀はこの美しいメロディを丁寧に心を込めて歌い込み、・バンドのサウンドと見事に融け合う。中間asのムーディなソロが入る。

 

5. Caravan
 キャラバン
1937年エリントン楽団のファン・ティゾールがデュークと共作したアフロ・リズムの佳曲で「砂漠を行くキャラバンに注ぐ月の光を浴びながら愛を夢みる」というエキゾチックな歌詞。ビリ一・エクスタインが歌って大ヒットとなりエリントン楽団は57年エラと共演した。ここではバンドのアレンジがアラビア的なサウンドを表出し、唄のバックと間奏にエリントン楽団ならではの情緒をかもし出す。

 

6. In A Mellow Tone 
イン・ア・メロウ・トー
エリントン楽団が1940年に軽快なビッグバンドのサウンドで録音して以来カウント・ベイシー始め多くのビッグバンドレパートリーになった。デュークは古い曲のRose Room (アート・ヒックマン作曲)のコードに新しいメロディをのせたといわれ、デュークの曲の中では平易で親しみ易いメロディなので、55年に詞がついて、エラやヘレン・メリル始め多くの歌手がとり上げた。「良い仲間の中で全てがうまくいくのでメロウな気分だ…」という歌詞を平賀は楽しいムードを出しながら優しく歌う。


7.I Didn't Know About You
 アイ・ディドント・ノウ・アバウト・ユー
1944年エリントン楽団でジョーヤ・シェリルが歌い、ジョー・スタフォード始め、エラ、サラなど多く歌われた。「私は仲間と愉快にやっていたつもりだが、あなたのことは判らなかった‥」といういささかさめたラヴソングだ。平賀のボーカルもゆっくりと淡々としたムードですすむが間奏のtsが表情たっぷりに吹きかける。

 

8. I'm Gonna Go Fishin'
 アイム・ゴナ・コー・フィッシン
原曲はデュークが1959年オットー・プレミンシャー監督の映画『ある殺人』 (Anatomy of A Murder)のために書いた音楽の主テーマで、ジェイムス・スチュアートが主演し、音楽も評判になった。映画のサウンドトラックを聞いたベギー・リーがこのテーマ曲に歌飼をつけて、I'm Gonna Go Fishin'という曲名で1960年に録音して忽ちヒットした。ジャズ通なら、同年ジェリー・マリガンが自らのコンサート・バンドでこの曲名で演奏して評価されたことを御記憶だろう。アニー・ロスやシンガーズ・アンリミテッド、メル・トーメが歌った。ここでは非常に凝ったアレンジで、R&B的なリズムにのつて、平賀が気持ちょきそうに歌い上げる。中間のssのソロが盛り上げ、平賀も呼応して熱っぽくシャウトする。

 

 

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ペギー・リー。

彼女がカバーしたのは当時の流行歌だったからだと思うが、最近は別の理由でよくカバーされる。それは、この曲がエリントンの曲の中では珍しくハチロク(6/8)の曲だからだ。エリントンをカバーしたいんだけど、いまさらA列車やるのもなあ…なんて、ひねくれた考えの人ジャズ精神に富んだ人に好んで取り上げられる。しかもファンキー!

 

  

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9. In A Sentimental Mood
 イン・ナ・センティメンタル・ムード
1935年デューク作曲のバラード傑作で、エリントン楽団の演奏は数限りなくあるが、ボーカルはエラとの共演盤位しかない。しかしア-ヴィング・ミルスの「部屋に入ってくる星の光を見て薄闇を明るくする炎のようなあなたの愛情を感ずる」という歌詞がロマンティックで、エラ、サラ、キャロル・スローンなど名唱が多いメロディだが、高低の巾が広く、平賀は低音部を巧みに歌いこんで、曲の良さを増幅させる。

 

10. Just A Sittin' And A Rocktn'
 ジャスト・ア・シッティン・アンド・ア・ロッキン
エリントン楽団が1941年に録音した文字通りロックする演奏に、詞がついて45年ジューン・クリスティがスタン・ケントン楽団と歌って大ヒットし、以降、エラ、クレオ・レイン、ルーシー・アンポーク、メル・トーメなどが歌った。愛しい人を抱くこともなく、一日中無為に過ごす悲しい腕の内を表現したブルーなラヴ・バラード。通常の歌曲にはきかれない独特のエリントン・ムードの横溢したボーカルとサウンドの魅力が見事に表現されでいる。中間のtbのワウワウ・プレイもきかせる。

 

この解説でしばしば言及されるメル・トーメのエリントンカバー集はこれ。ベイシーと一緒に取り上げてるのが面白い。

 

Ellington & Basie Songbooks

Ellington & Basie Songbooks

 

 

 

11、Take The A-Train
  A列軍で行こう
1941年エリントンの片腕ビリ一・ストレイホーンが作曲した余りにもポピュラーなスウィング・ナンバー。「ハーレムのシュガーヒルに行くなら、A列車に限る、さあ乗ろう」というこの曲の由来をビリーはこう語る。

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「ちょうど新しく開設した地下鉄Sixth Avenue Expressの“Dトレイン”が、ハーレムの145丁目まで北上してから西に曲がってブロンクスに行ってしまう線だった。非常に多くの人がハーレムに行くのに”Dトレイン”に乗つでブロンクスまで運ばれてしまって、引き返さなければならない目にあう人が多かったので、ハーレムの200丁目まで行くには”Aトレイン”でなければ駄目だよ、という歌詞をつけたんだ。」もう一つビリーは、フレッチャー・ヘンダーソンのアレンジをこの曲のサックスとブラスに応用したかっだ、と述べている。エリントン楽団の唄としては、1952年のベティ・ロシエのバップ・スキャットが有名で、美空ひぱりがそのスキャットをそっくり歌ってレコーディングした。平賀もバンドと一体化してスウィングし、中問のスキャットも交えて高揚する。

 

 ベティ・ロシェのはこれとかこれとか。美空ひばりはそれですな。

 

 <エリントンオケ>

Ellington Uptown

Ellington Uptown

 
<ソロ作>
Take the a Train

Take the a Train

 

 

美空ひばり

ジャズ&スタンダード

ジャズ&スタンダード

 

 

12. Dance In Harlem
  ダンス・イン・ハーレム
この曲だけは本アルバムのプロデューサーであるAtsushi Kosugiが作曲したオリジナル曲。Atsushi Kosugiはニューヨークを拠点にレコーディング・プロデューサーとして活動している。この曲のアレンジではトミー・ジェイムスにclの高音を巧みに使用したエリントン的サウンドを衷出させることに成功し、中間にtsの力強いソロを効果的に配してアルバムのラストにふさわしいボーカル・ナンバーに仕上っている。
                      瀬川昌久

 

 Atsushi Kosugi 氏は、グリーンカードが当たって、アメリカで活動しているようだ。


以上、「瀬川昌久氏の平賀マリカ作品の解説」の解説。 

まだまだ知らないことたくさんあります。