ビリー・ホリデイに、『Lady in Autumn』というアルバムがあります。
「the best of the verve years」の副題のとおり、46年から晩年の59年までの録音を広く薄く集めたベスト盤です。
若い頃は、「いいとこ取りで音楽を聴くな!」とか、「作家性が損なわれる!」と思っていて、こういうベスト盤は大嫌いでしたが、最近はコンピレーションとかよく聴きます。これは、以前よりも編集者の意図がわかるようになったからかもしれません。素晴らしい編集者が編んだコンピ盤には、そのアーティストのあるイメージを表象させる力があります。
さて、で、この『Lady in Autumn』。
このアルバムはベン・ウェブスターとの全盛期と、晩年の壮絶な『Lady in Satin』との間の、「秋」とでもいうべき時代のビリー・ホリデイの音楽を聴くために編まれた1枚です。
ビリー・ホリデイの音楽は素晴らしい。
どこかで、小説家の奥泉光先生が「楽器の魅力からジャズを好きになった人間には、ジャズ・ヴォーカルの魅力はなかなかわかりにくいものがある」と書かれていて、まさにその言葉のとおりでわたしは長いことジャズ・ボーカルを敬遠していました。
その扉を開いてくれた1人がビリー・ホリデイ。圧倒されました。
ただ、その全盛期や晩年の音楽は、日常的に聴くのは少しシンドイんですよね。会社に行く車中や、帰宅途中で聴いたら、確実にその後の生活に影響します。
……どちらかというと悪い意味で。
なので、少しだけビリー・ホリデイの雰囲気を楽しみたい、というときはこんなベスト盤はちょうどよかったりするんです。
若い頃のわたしにぶっ飛ばされそうですが。
で、このベスト盤にはエリントン曲のカバーが2曲収められています。
それが「Prelude To A Kiss」と「Do Nothin' Till You Hear From Me」。
この「プレリュード・トゥ・ア・キス」、陰影深くていいんですよ。
わたしは、この「Prelude To A Kiss」と「All Too Soon」、それとポールの「Happy Reunion」はエリントン・ナンバーとしてもっと知られていいと考えています(「All Too Soon」は、たしかどこかで村上春樹さんも同じようなこと書いてたような)。
その意味でも、この演奏をおすすめしたいんです。
それにしても、 「プレリュード・トゥ・ア・キス」って、ローマ字入力で打ちにくいなあ。小中学校やパソコン教室の先生方、「難入力単語」のひとつに加えられたらいかがでしょう? 中学校だったら、「プレリュード」の意味とか、タイトルの意味も思春期の少年少女の関心を呼ぶと思いますよ。
以上、日常の備忘録でした。
あ、「Do Nothin' Till You Hear from Me」も悪くないですよ。
ジャケットの写りが良かったので上のリンクではMP3のものを貼りましたが、もちろんCDもありますよ。