Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

「阿川泰子とエリントンを語る」(岩浪洋三氏)

うわ。

またすごいのがでてきました。

 

f:id:Auggie:20190407053202j:plain

 

マイルス狂の友人へのプレゼント、と思ってブックオフで買ったスイングジャーナルのバックナンバー。

その後、関西から東へと転勤になった友人はもうずっと戻ってきません。渡す機会も少なそうだから、と思って、捨ててしまおうかどうしようかと迷っていると、中にエリントン関係の記事が。

…ああそうだ、この記事もあったから、ずっととっておいたのでした。

 

『My Duke』という歌モノビッグバンド作品を作った直後の阿川泰子へのインタビュー記事。インタビューアーは岩波洋三氏。

 

MY DUKE (MEG-CD)

MY DUKE (MEG-CD)

 

 

当時発掘された、エリントンの映像作品を観ての感想を話してもらう、というインタビューです。昔はこういう企画、たくさんありましたよね。

このとき観た作品はこれだと思います。

 

 

とりあえず2人の会話に耳を傾けましょう。

 

阿川泰子とエリントンを語る 『MEMORIES OF DUKE

1968年メキシコ・ツアーをとらえたエリントン楽団のビデオ・マスターピース

 

本誌選定《AVゴールドディスク》第5弾に選ばれた「メモリーズ・オブ・デューク」は,エリントン・オーケストラがメキシコ・ツアーを1968年に行なった時の貴重なコンサート・ビデオ。デューク(公爵)と呼ばれたエリントンの優雅な指揮ぶりや名曲の数々,そしてラッセル・プロコープ(as)らエリントニアンたちのインタビューなどを折り込んだ素晴らしい仕上がりをみせている。このビデオを,エリントン作品集「マイ・デューク」をリリースしたばかりの阿川泰子と一緒に視聴しながら,エリントンヘの熱き思いを語っていただいた。   
 阿川泰子が9月にアルバム「マイ・デューク/阿川泰子&ビッグ・バンド」(ビクター音楽産業)を出し,10月21日には,「My Duke」というコンサートも開く。このところずっとデューク・エリントンの音楽に取り組んできた阿川泰子に,一緒にデュークのビデオ「メモリーズ・オブ・デューク」(エム・エム・ジー)を観ながら,デュークの音楽の魅力について,デュークを歌う楽しさや苦労話をいろいろ語っていただいた。

――エリントンといえば,64年,66年,70年,72年と4回来日しているんですが,その頃阿川さんは…。

阿川 60年代はもちろんのこと,70年代に来日した時も,まだ歌手になってはいなかったし,名前を知ってはいても,エリントンの曲を歌うことになろうとは夢にも思いませんでした。
 デュークのビデオ「メモリーズ・オブ・デューク」は1968年にメキシコ市で行なわれたコンサートの録音,録画で,この年は日本に来ていないので,特に興味深いものがある。この時期のエリントン・バンドには,また往年の個性豊かな名手がずらりと揃っていたので,エリントンらしい味わい深いサウンドをたっぶり聴くことができる。ジョニー・ホッジス(as),ラッセル・プロコープ(as.cl),ポール・ゴンサルベス(ts),ハリー・カーネイ(bs).キャット・アンダソン,クーテイ・ウィリアムズ(tp).ローレンス・ブラウン(tb)らの顔が並んでいるのである。

             ●

――ところで,阿川さんが今回エリントン・ナンバーを歌おうと思うようになったきっかけは何だったのですか。

阿川 じつは今回が20枚目のアルバムなんですが,ふり返ってみると,これまでビッグ・バンドで歌った作品が1枚もないわけです。そこでビッグ・バンドでと考えたのですが,ビッグ・バンドといえば,やはりカウント・ペイシーかエリントンですよね。で,どちらを選ぶかといえば,エリントンのほうがセクシーで,なにかぬらぬらした魅力を感じるんです。それで楽曲的にはエリントンを,リズムとサウンドはベイシーでいこうと決めたんです。

――なかなか欲張りですね(笑)。

阿川 そうなんです。私は欲張りなんですよ。私はそんなに何年も前からエリントンについて詳しかったわけではないので,私の感じた各々のいいところをくっつけたらというこということで,アレンジをベイシー風にしたわけです。エリントンの楽曲は熱帯のジャングルから蛇が出てくるような感じってあるでしょう。

――そうそう昔エリントン・バンドの演奏はジャングル・スタイルと呼ばれて,ミュートによって猛獣の咆哮のようなサウンドを出したのです。

阿川 ぬめっとした感じが出てくる感じですよね。で,そのままだと私とはちょっと感覚が違うんじゃないかと思ったのでベイシー・サウンドにしたわけなんです。

――阿川さんの歌はソフイスティケイテッドですからね(笑)。阿川 それにスイング感のあるものの方が似合うと思って,そういう編曲が多くなっています。それと,たんにビッグ・バンドの伴奏で歌うのではなくて,昔スイング時代によくあったように,だーっとビッグ・バンドの演奏があって,こことここに歌があって,演奏中歌手はそばに立って,ニコニコしているってのがありましたよね。あれがいいっていうので,ウイズ・ビッグ・バンドではなくて,バンド演奏を生かす意味で,アンド・ビッグ・バンドにしたんです。演奏をたっぶり聴いてもらいたいというのがこの『マイ・デューク』であり,コンサートなんです。


             ●

 ビデオ「メモリーズ・オブ・デューク」は「サテン・ドール〉の演奏にはじまり,「クレオール・ラブ・コール」「ブラック・アンド・タン・ファンタジー」「ザ・ムーチ」「ハッピー・ゴー・ラッキー〉と有名なエリントンのヒット・ナンバーがっぎっぎに演奏されるので大変親しみやすい。またメキシコ公演を記念して大作〈メキシコ組曲〉が演奏されているのも聴きものだ。
 なお,本ビデオが制作されたのは,デュークが亡くなった後の80年代に入ってからで,このビデオの演奏にも加わっている2人のスター,クーティ・ウィリアムズとラッセル・プロコープがインタビューに答え,いろいろデュークの思い出を訪っているのも興味深い。ボスについて語る表情が楽しげで感謝の念に満ちているのがさわやかだ。
             ●

――このビデオを観ての感想を|司かせてはしいのですが。

 

阿川 ベイシーは明るくて,楽しく,いいおじさんて感じを受けますけど,デュークはこのビデオを観てもちょっと気むづかしそうですね。でもセクシーです。にこっと笑うまではちょっとコワイつて感じもしますけど。

――やはりデュークは作曲家なので気むづかしい表情になるんでしょう。ベイシーは他人に編曲を頼むので,その分気楽なんじゃないですか。

阿川 そうでしょうね。それにデュークは女性からみて本当にセクシーですね。それに曲も演奏も長い曲線の感じがしますね。ペイシーの演奏は短くて太くてパキパキっと切
れる感じですけど,デュークの場合は,切れそうで切れないフレーズが多いですね。

――特にここでも演奏しているポール・ゴンサルベスのテナーなどその典型でしょう。

阿川 それにデュークの場合,誰々が演奏しないとこの曲にならないっていうのが多いでしょう。

――デュークはメンバーの個性に合わせて作曲したといいますからね。

阿川 だからこのビデオで観るような名手がいないと,いくらアレンジしても往年のエリントン・バンドのようなサウンドは出せないわけですよね。私の録音の場合はそれは不可能なので,ベイシー的タッチを導入したというわけなんです。

――それは正解でしょうね。
             ●
 たとえば,このビデオでも演奏されている「昔はよかったね」はジョニー・ホッジス用の曲でもあるし,クーティ・ウィリアムズやローレンス・ブラウンをフィーチャーするための曲もたくさんあった。ここで演奏されている「ムード・インディゴ」はトロンボーンのウィリー・クックがソロを取っているが,エリントンの作曲の意図をじつによく生かした好演奏に思える。
             ●
――エリントンの作曲で特に好きな曲はなんですか。アルバムでは好きなものだけを選んで歌ったわけですか。

阿川 そうでもないんですけど,楽曲がとにかくたくさんあるでしょう。だから選ぶのに事欠かなかったのと,やってみたいと思ったのは「ジャスト・スクイーズ・ミー」などいつも演奏で聴いていて,あまり歌ったことがなかったんですけど,やりたいなとは思っていたんです。歌詞が『抱きしめて』なんてとても可愛いいじゃないですか,とてもセクシーで。それに「サテン・ドール」にしても「ソフィスティケイテッド・レディ」にしても,すごく大人の男の人が出てくるんです。いわゆるスタンダード曲は,割合,これから恋をしようとかいい人が見つかるかしらとか恋のしはじめの歌が多いのに,彼の歌は恋をいろいろ知り尽し,恋のかけ引きとかが出てくるものが多いんですね。

――デュークは『コットン・クラブ』という最高の社交場にずっと出ていて大人の世界をみてきだからでしょう。

阿川 日本では私も熟女なんていわれますけど,外国ではまだまだ子供っぽく見られて,もうその年でデュークを歌うの? なんていわれるんです。

――ジャズ・ファンの場合でも,ペイシーのファンは10代のような若い層に多いんですが,デュークの場合は,ジャズを聴き込んだ熟年層にファンが多いようですね,

阿川 むつかしくってわかりにくく最初からキャッいい! といっては入らせてくれないところがあって,じわじわ理解できるようになると,曲折した男やむづかしそうな男をすてきだと思うようになるのとデュークの音楽は似てますね。最初は楽しい人や明るい人をいいと思うんですけど。

                ●

 阿川泰子のアルバムは全編彼女のボーカルのデューク曲集だが,このビデオでは歌は若い女性歌手トリッシュターナーが「スイングしなけりや意味ないね」を歌うだけである。しかし,全編を通して聴いていると,一種歌を聴いているような気分にもなれるから不思議である。それは彼が歌が好きで歌の曲をたくさん書いているためか,どの曲にも歌が感じられ,ブラスのミュートがまるで歌のような効果を挙げていることにもよるのだろう。実際,デュークの場合は器楽曲に後から歌詞がつけられて歌曲になる場合も少なくないのであるデュークの音楽はジャズのすべてがあると感じるのもそのためかもしれない。
             ●

阿川 器楽曲を歌にしたといえば「デュークス・プレイス」で,これは歌うのにいちばん苦労しましたね。元の「Cジャム・ブルース」をジャム・セッションで器楽奏者と一緒にアドリブであまり歌ったことがなかったので,歌い方がむづかしかったんです。参考資料も少なかったし。とにかくエリントンは多作家ですね。

一一なんでも1500曲以上あるとか。「ジャンプ・フォー・ジョイ」のようなミュージカルも書いているし,早書きの天才だったようですよ。録音日の前日に朝まで友人と飲んでしまい1曲も書けなかったので,スタジオに行くタクシーの中で書き,それを録音中に次の曲をスタジオの壁に五線紙を押しつけながら書いたというエピソードが残っているそうですね。「サテン・ドール」も早書きの1曲とか。彼が朝起きてすぐステーキを食べているビデオを見たことがありますが,たいへん精力的な音楽家でしたね。

阿川 まるで肉食獣ですね(笑)。だからなかなか彼の作品を飲み込むことができないわけですね。べとっと牛肉の油がまとわりつくような曲もありますよね。強そうなタフ男というか,「ムード・インディゴ」の音のぶ厚さというか,油絵のタッチですね。ベイシーの場合は時に単色の“シンプル・イズ・ベスト”みたいなところかありますよね。デュークの場合は今回もいろいろ食べ切れない曲もあって次に廻しました(笑)。エリントンの曲には,ダンスしているというか腰の動いているなまめかしさがありますね。また,黒人特有のクラシック音楽の響きも聴えてきますね。

一一たしかに。彼はフランスの近代音楽のドビュッシーやラベルが好きだったようで,不協和音を使ったモダンなハーモニーが聴かれますね。それでぼくはデュークの音楽を戦前のモダン・ジャズという風に呼んでいるんです。

             ●

 デュークは大作や組曲が好きで,このビデオでも御当地曲として演奏している「メキシコ組曲」は「ニューオリンズ組曲」「香水組曲」など他の組曲と比較しても傑作のひとつだといえるだろう。また,このビデオにはデュークの古い映像も挿入されているが,「ムード・インディゴ」では古い演奏と新しい演奏を比較して聴けるようになっているのも興味深い。
             ●
阿川 デュークつてほんとうにいい歌,いい曲をたくさん
書いているけれども,歌手の立場からいうと難しい,歌いにくい曲も多いんです。黒人独得のブルーノートはたくさん出てくるし。でもそれがまた,もの哀しさを醸し出すんですよね。私のアルバムのアレンジをしたトム・レイニアはまだ若くて昔からこのような音楽をそんなに前から知っていたわけではないけども,愛していてやってみたいという気持を持っていたので,私なんかの気持もわかってもらえる人なんですね。 ドラムは前から予約してあったハービー・メイソンで,ホーンの人たちはスヌーキー・ヤングとかベテランの名手ぞろいです。ところで,このビデオ,古い映像か出るとクーティとラッセルが昔を思い出してしんみりと見入っているシーンがいいですね。またここでの<A列車で行こう〉はいつもとやり方が違っていて面白いですね。才能のない人はいつも同じパターンをくり返すけれども,デュークはそのつど新しく創造していくのが素晴らしいですね。

――阿川さんが今度のアルバムで苦労した点はどこですか。

阿川 全部なんですが(笑),少しキーを下げて,さらに大人っぽくしようとしたんです。半音下げるだけでかなりトーンが変わるんですね。ほんとうはエリントンはもっと年齢を重ねてから歌えばいいのかも知れないんですけど自分の声のいちばんいい状態の時に歌いたいという気持もあって今回思い切ってデュークの曲を歌ったわけです。でも今日はほんとうにいいものを観せていただきました。これははじめてでした。

――その気持はわかりますね。また何年かたって再挑戦してもいいわけですから。
             ●
 ビデオは「A列車で行こう」のあと,「ソフィスティケイテッド・レディ」「ドゥ・ナッシン・ティル「・ユー・ヒア・フロム・ミー」が演奏されて,デュークのおなじみの「ラブ・ユー・マッドリー」の挨拶で幕を閉じる。ライブ録画でもこれほど有名曲揃いなのは珍しいと思う。ホッジスはこのあと70年に亡くなっているし,往年の名手が勢揃いしたこれは最後の映像といえるかもしれない。

f:id:Auggie:20190407055148j:plain

岩波洋三氏と渋谷毅

f:id:Auggie:20190407055359j:plain

阿川泰子さん …どことなく勝間和代氏に似てるような…

いやあ、何から何までなつかしい。

中学校の頃、ビッグバンド・ジャズの廉価版のオムニバスCDを聴いて、そのゴージャスな厚みとグルーヴに惹かれたわたしは、近所のレンタルCD店でジャズを聴きまくりました。

そんななか、エリントンを聴こうと思って手に取ったのが、忘れもしない、阿川泰子さんのこの『My Duke』でした。これと父が買ってきた『First Time!』と合わせて、中坊のわたしの頭にはエリントンは好印象。生意気に「エリントンって、いい曲書くな~」なんて思ってました(もっとも、それが『LONDON CONCERT』を聴いて正反対の評価になり、さらに加藤総夫氏先生の導きにより再浮上することになるのは、また別の話です)。

 

MY DUKE

MY DUKE

 

 

 ただ…いまのわたしがこの記事とこの作品について語るならば、両者とも、極めて浅いなあ、という印象です。岩波洋三氏は比較的エリントンについての言及は多いのですが、そのわりにはそのコメントから得られるものが少ない。端的に、あんまり面白くない、興味深くないですね。少しあいまいな表現ですが、バブルな時代の日本で生み出されたもの、という感じがします。

あ、でも阿川泰子さんのこの作品、歌モノとしてのエリントン・ナンバーの魅力を伝えるのには十分な実力を備えていると思います。かなり希釈されているとは思いますが。

 

MY DUKE (MEG-CD)

MY DUKE (MEG-CD)

 

 

結局、この本で一番よかったのは表紙かもしれません。

マイルスが亡くなった時に、その写真をスーツ・スタイルで飾ったところがスイング・ジャーナルらしいところですね。

f:id:Auggie:20190407053202j:plain

 

これはいつの時代の写真なのか…。50~60年代なのは間違いありません。ラペルとネクタイの細さ、そして、手にしているのがトランペットでなくコルネットであることから、これはギルとのコラボ作品制作中の1枚でしょう。というと60年代でしょうね。
 

以上、ノスタルジーに甘えた記事でした。