知る人ぞ知る、70年代シルバーの名盤、『Silver'N BRASS』。
聴いたことのない人、食わず嫌いな人は聴いた方がいいぞ。
70年代ブラック・ミュージックのいいところがギュッと詰まった音楽だから。
- アーティスト: ホレス・シルヴァー,トム・ハレル,ボブ・バーグ,ボブ・クランショウ,ロン・カーター,バーナード・パーディ,アル・フォスター,オスカー・ブラッシャー,ヴィンス・デローザ
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2012/12/19
- メディア: CD
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収録曲は以下の通り。
録音は1975年(1/10、1/1/7)と70年代ど真ん中。
1.Barbara
2.Dameron's Dance
3.Adjustment
4.Mysticism
5.Kissin' Cousins
6.The Sophisticated Hippie
もうお分かりだと思うが、今回取り上げたのは #6 の「ソフィスティケイテッド・ヒッピー」のため。もちろん、「ソフィスティケイテッド・レディ」をもじったものだ。
そして、エリントンに捧げた曲。*1
そうか、今気づいたけど、75年ということはエリントンが亡くなった翌年。
これは単なるオマージュというより、追悼の意味のトリビュートだったのかもしれない。というのも、ホレス・シルバーは若かりし頃に「Prelude to A Kiss」なんてエリントンのカバーをしてたりもする。まあ、そんなこと以前に、こんなに真っ黒な人がエリントンを尊敬していないわけがない。追悼と考えて全然不思議じゃないね。
さて、では肝心の「ヒッピー」は?
その前にクレジットを見てみよう。
Horace Silver - piano
Tom Harrell - trumpet
Bob Berg - tenor saxophone
Ron Carter - bass (tracks 1-4)
Bob Cranshaw - bass (tracks 5 & 6)
Al Foster - drums (tracks 1-4)
Bernard Purdie - drums (tracks 5 & 6)
Oscar Brashear, Bobby Bryant - trumpet, flugelhorn
Vince DeRosa - french horn
Frank Rosolino - trombone
Maurice Spears - bass trombone
Jerome Richardson - alto saxophone, soprano saxophone, flute
Buddy Collette - alto saxophone, flute
アルバムタイトル通り、ブラス陣が充実。70年代のファンク臭濃厚だ。
特筆すべきなのは、#1-4 と #5-6とでリズムがガラッと変わること。
#1-4 はロン・カーターとアル・フォスター。マイルス・スクールの卒業生であり、その意味でジャズのメイン・ストリーム。
一方、#5-6はボブ・クランショウにバーナード・パーディ。これは正統的ジャズというよりもむしろファンク、ソウル、R&Bのミュージシャンといった方がしっくりくるのでは。もちろん、シルバー自身はどちらもOKな両刀使いなのだが、リズム・セクションがガラリと変わっているのがおもしろい。
で、「Sophisticated Hippie」はなんと、後者のファンク寄りのメンバーで録音されているんだな、これが。ベースなんかエレキベースだし。
意外な人選だけど、もしかしたら、この人選にこそエリントンへの追悼の意識を汲み取るべきなのかもしれない。つまり、ブラックミュージックの体現たるシルバーにしてみれば、エリントンは「ジャズの父」というよりも「ブラック・ミュージック総体の父」。その父を追悼するのには、とりあえずジャンルが確立した「ジャズ」のミュージシャンよりも、現在進行形で発展しつつある当時のコンテンポラリー・ブラックミュージックである、ファンク、ソウルのミュージシャンによる追悼の方がふさわしいと考えたのではないか。まさに「Jazz is the teacher, Funk is the preacher」。エリントンの功績を広めるには、ファンク形式によるべきだ、というのがシルバーの判断なのだ!
……いや、単にミュージシャンのスケジュールの調整上そうなったのかもしれないけどね。それに、マイルスもエリントンを限りなく尊敬してるわけだし、そのマイルス・スクール門下生と演奏する、という方が筋が通ってると思うから、以上のはこじつけなんだけどね。本当のところはよくわからない。肝心の「~ヒッピー」という曲自体、エリントンを感じないし。
ただ、上記の解釈も一理あるように思うのである。そういえば、スティーヴィー・ワンダーの「Sie Duke」は76年の発表だ。これもエリントンへの追悼。
原則として、このブログでは動画の紹介はしないことにしてるんだけど、この「Sie Duke」があまりに素晴らしいので思わず埋め込んじゃった。
これも言わずもがなだけど、アルバムとしてはこれに収録。
あまり「洗練されて」ない終わり方けど、今回はこの辺で。