Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

エリントンとザヴィヌル(その4)

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エリントンとザヴィヌルの続き、(その4)です。

tas1014さん の素晴らしいコメントに答えてのわたしの返答を。

 

 

tas1014さん 「周知の内容」ではないと思いますよ~(笑)。いつものことながら丁寧なご紹介、ありがとうございます。エリントン/ザヴィヌル問題も整理が必要なテーマですね!
まず、エリントンの『My People』の位置づけの問題。この作品、エリントンはどこまで本気だったのか。63年の8/16~9/2の間、エリントンのこの作品はシカゴのアリー・クラウン・シアターにて定期上演されていましたが、エリントン自身は参加せず、ピアノはジミー・ジョーンズとストレイホーンが弾き、指揮もジミー・ジョーンズ。『My People』の録音は63年8月20日、21日、27日で、キング牧師の「ワシントン大行進」は最終録音日の翌日28日。エリントンの主治医のアーサー・ローガンがキング牧師を支持していたことを考えると、これらの日付の一致は偶然ではありませんよね。

 

My People

My People

 

 

そして、これまでの政治的傾向から、エリントンはキング牧師の行動を強く意識しながらも、自分自身がこの運動に直接加担すること、またはこの運動を直接支持していると思われることを注意深く避けているようにわたしには思われます。なので、tas1014さんが仰っているように、「インタビュアーの質問に面食らった」というのは、どう回答するかの時間稼ぎというか、無意識の逡巡が表れてしまったのでは…なんて妄想をしています。インタビュー音源のリンク、ありがとうございました。

ザヴィヌルのエリントン解釈は、エリントン自身が「My People」という意味について韜晦気味であり、明らかにしていないので何とも言えませんが、結局のところ「インスパイアされた」程度のものかもしれませんね。

楽家は自分に都合のいい文脈でエリントンの名前を召喚して正統性主張し、正当化を図ります。あ、ザヴィヌルに関しては「正当化」という言葉は言い過ぎかもしれません、ザヴィヌルのサンプリングはまさに換骨奪胎。サンプリングすることにより、オリジナルの価値を高めつつ、自己の作品の権威付け(?)にも成功しており、実に効果的だと思います。

さらに面白いのは音楽面でして、一聴、ザヴィヌルはエリントンの熱烈な信奉者ではない(ようにみえる)のに、音楽的に最終的には似た境地に達したことです。加藤総夫氏は以前に、エリントンが現代に生きていてバリバリの現役だったら、「コンピュータ・ミュージックの打ち込み魔」になっていただろう、と書いていて、そのときはよく意味がわからなかったのですが、ザヴィヌルの晩年の姿勢をみると、加藤氏の言いたかったことがなんとなくわかるような気がしてしまいます。両者に共通するのは、サウンド(ハーモニーを超え、各楽器・プレイヤーの個性・癖レベルのサウンド)を徹底的に自己のコントロール下におく、という欲望でしょうか。ただ、エリントンはむしろ60年代以降、異種格闘技戦に積極的になっていくわけで、これはザヴィヌルとは逆の方向性。もっとも、これはスター・プレイヤーを永遠に手元においておけないことへの諦念から来たものなのかもしれません。
『Rediscovered Ellington』の情報もありがとうございます! ざっと聞きましたが、かなりコンテンポラリーな内容で、エリントンサウンドを現代的に解釈/追求した音楽に聞こえました。この作品にエリントンの名前を冠した理由を知りたいですね。

 

以上が tas1014さんのコメントに対して、急いで返信したコメント。

急いでお返ししたものですが、わたしが今考えていることとあまり変わりはありません。表面的にはそうではありませんが、聴いているうちにその親近性が強く感じられてくる。わたしにとって、エリントンとザヴィヌルはそういう存在です。

ザヴィヌルはアドリブ、即時的に生ずるフレーズ、メロディというものをそれほど重視しておらず、それよりも全体的なバランス、サウンドというものを重視していたように感じられ、これはエリントンも同じ考えでした(もちろん、アドリブを軽んじていたわけではないでしょう。ただ、ザヴィヌルにとっては「対応力」や「底力」的なもので、アドリブが最重要要素とは考えていなかったのではないでしょうか)。

で、これに対する tas1014さんのコメントが素晴らしいものでして…と、それについてはまた次回に。

 

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