Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

WDRのエリントン・トリビュート!? エリントンとザヴィヌル(その3.5)

エリントンとザヴィヌルに関して、ここで少し寄り道して、前回記事の補足を。

tas1014さんが言及された2枚の作品についてみておきましょう。

 

 

1枚めはこれ。

Ellington Loverなら、その作品名だけで聴いてみたいと思わせる作品。

WDR Big Bandによる『Rediscovered Ellington』 。

 

Rediscovered Ellington: New Takes on Duke's Rare and Unheard Music

Rediscovered Ellington: New Takes on Duke's Rare and Unheard Music

 

 

この作品、Spotify でもGoogle Play Musicでも、Amzon Music Unlimited でも聴けます。

 

 

期待して聴いてみると! ………うーん、これ、エリントンと何か関係ある音楽なんですか? というのが第一印象。

tas1014さんも引用サイトを簡単にまとめられているように、エリントンの親族から許可を得てその楽譜などを発掘した、とありますが、全然エリントンじゃないです。ニーチェの『悲劇の誕生』の重要概念である「アポロン的なもの(das Apollinisch)」「ディオニュソス的なもの(das Dionysisch)」「ソクラテス的なもの(das Sokratisch)」という言い方を踏まえるなら、この作品には「エリントン的なもの(das Dukisch, the Dukish)」の力が働いていません。端正なビッグバンド・サウンドがあるだけ。

エリントンの名前は、単に商業的に利用されたのかな、と思ってしまいます。ごめんなさい、今後、エリントンという観点から、わたしがこの作品を手にとることは無いでしょう。

 

一方で、このWDRビッグバンドがザヴィヌルと共演した『Brown Street』。これはおもしろかったです。

 

Brown Street

Brown Street

 

 

Weather Report (以下、WR)の音楽を、ビッグバンドで再現。

え? それって、もうジャコが40年近く前にやってたんじゃないの? まあ、そう言われるとそうなんですけど、Word of Mouth はジャコのバンドですよ。カバーしてるWRの曲も、ショーターの「Elegant People」を除けば全部ジャコの曲ですし。

WRはザヴィヌルとショーターの双頭コンボだったことを考えると、これはその片割れであるザヴィヌルによるセルフ・カバー作品。そういうつもりで聴くと、目新しさはないものの、WRの忠実な再現に徹しており、これはこれで好感がもてます。Vince Mendoza が参加してるのも、ジャズファンのマニア心をくすぐるかもしれません。

そして何よりおもしろいのは、エリントン・ナンバーはもちろんやっていないし、やっているのはザヴィヌル作品ばかりなのに、『Rediscovered Ellington』なんかよりも、よっぽど「エリントン的なもの」を感じること。これは興味深い発見でした。

 

最後に、タイトル名も意味深です。

これ、穿った見方をすると、WRの『Black Market』を踏まえて、この作品はWRが文化的に混淆した作品であることを示しているのではないでしょうか。

  

Black Market

Black Market

 

 

エリントンは、アメリカに連れてこられたアフロ・アメリカンの文化・音楽が、アングロ・サクソンの白人と混じっていくことによる悲哀と、その逆説的な美しさを、いみじくも『Black, Brown and Beige』という大作で表現しました。

『Brown Street』というタイトルには、『Black Market』と『Black, Brown and Beige』への目配せがあるのではないでしょうか。

 

Black Brown & Beige

Black Brown & Beige

 

 

…という思いつきを書き付けただけですよ、今回の記事は。

 

全然関係ありませんが、『Blue Giant』の新刊出ましたね。わたしは『岳』からの石塚真一先生のファンですして、一度としてその新刊に裏切られたことはありません(いや、正直に言うと雪祈のアレは、読むのが苦痛でもうやめようか、と思いましたよ)。ヨーロッパ編でエリントン関係出てこないかなあ。

フランス編で、「エリントン」がエレクトロニカと融合して消費される一方で、ボリス・ヴィアンに代表される40-50年代に遡るヨーロッパ・ジャズ文化の源流として言及されないかなあ、なんて妄想してます。で、「キャラバン」を鬼神のごとく吹きまくる、とか、日本への一時帰国後、「In A Sentimental Mood」で音楽感が変わったことを示すとか。いや、雪祈のアレくらい辛い体験だったら、むしろエリントンが母の死を昇華するためにつくった「Reminiscing in Tempo」でしょうか。

 

BLUE GIANT SUPREME (7) (ビッグコミックススペシャル)

BLUE GIANT SUPREME (7) (ビッグコミックススペシャル)