Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

ミンガスのピアノ、その真価は?

今回はエリントンから少し離れますが…重度のEllington Lover、ミンガスのピアノ・ソロ作品についてです。

 

Mingus Plays Piano

Mingus Plays Piano

 

 

ミンガスの熱狂性、ロマンティストがうかがえる思いがけないLP。A&Rマンの実行力に感心。

ミンガス・プレイズ・ピアノ  チヤールズ・ミンガス(Impulse)
 一流のベース奏者、オーケストラ・リーダーとしてはあまねく知られているミンガスのピアノ・ソロLPときくとちょっと驚くが、こういうLPをつくって発売するインパルスのお偉方やA&Rマンの実行力には感心する。少なくともどんなレコード会社でもミンガスのピアノだけのLPを出す勇気のある会社はあるまい。もちろん、これまでにもミンガスのレコードで演奏の間に彼が突如ピアノを弾き出したLPもあるし、彼が少年時代にピアノを習っていることも知っている。また作曲家ミンガスが作曲や編曲をピアノでしていることも想像されるのだが、一LPになることは誰も予想できなかったであろう。事実、予期したようにミンガスはけんらんたるテクニックできかせるピアニストでもなければ、その他の意味でも革命的なスタイルをみせる前衛ピアニストでもない。が、このLPは彼のオーケストラをきく時と同じようなおもしろさはたしかにある。十一の演奏曲目は三つに分けられるが、一つは「マイセルフ・ホエン・アイ・アム・リアル(Myself When I am Real)」「コンポジショナル・テーマ、ストーリー~メドレー(Compositional Theme, Story ~ Medley)」「メディテーション・フォー・モーゼス(Meditation for Moses)」などのミンガスの作曲(編曲)家的イメージ、オーケストラヘの工程を示すデッサン的なピアノ・プレイであり、第二は彼の旧作へのノスタルジア、愛着を示す「オールド・ポートレート(Old Portrait)」「オレンジ色のドレス(Orange Was the Colour of Her Dress Then Blue Silk)」「ローランド・カークのメッセージ(Roland Kirk's Message)」などである。そして第三は「言い出しかねて(I Can't Get Started)」「身も心も(Body And Soul)」「僕はセンチになったよ(I'm Getting Sentimental Over You)」、「あなたの想い出(Memories of You)」などリリカルなスタンダード曲を演奏したロマンティストらしいミンガスである。そのどれもがミンガスなのだが、この三つの系列の演奏を通してミンガスという人の思想、知性、人間くささがうかがわれ、熱狂的な一面とロマンティストらしい一面が浮かび上がってくるのである。とにかく思いがけないLPであり、ミンガスの私生活をのぞき見たような気持ちのするアルバムである。
  (『レコード藝術』64年12月、録音63年7月30日)

 

「A&R」とは、Artist & Repertoire のことで、担当アーティストのCDを作ったり音源を作ったりといった「制作」や、その音源をいかにして世の中に届けていくか戦略を練る「宣伝」をする仕事のことです。エリントンやマイルスはそういうの上手そうですが(というか、菊地=大谷説によると、マイルスの魅力の大部分がこれです)、ミンガスはそういうのが苦手っぽいので、こういう企画はおもしろいですね。

はっきりいって、ミンガスのピアノについて技術に特筆すべきところはありません。というか、クラシックのピアノを弾いている人からすると、怒り出すかもしれません。この程度で1枚つくれるのか! と。あと、間の取り方というか、フレーズの呼吸もよくないです。ベースはあんなにグルーヴィなのに、ピアノとなると、指が回ることの喜びからか、音数が多すぎて冗長すぎる印象です。

ただ、解釈というか、全体の音楽性はさすがですね。特に自曲の演奏は素晴らしい。まあ、作曲者なのだから当然といえば当然なのですが。

「技術はアレだけど解釈は一流。特に自曲の解釈が素晴らしい!」というミンガスのこの作品とまったく同じ印象を抱いた1枚があります。

 

ENCORE

ENCORE

 

 

家族で愛聴している1枚ですが、これもおもしろい音楽ですよね。上手いか下手かで言ったら、強調するほど上手くはありませんが、音楽としては素晴らしい音楽です。このコンサートの動画もネットに上がっていますが、それは久石氏の本性がピアニストではなく、作曲家であることが現れています。指を震わせながら、丁寧に1音1音紡いでいく久石氏の姿はある意味微笑ましく、しかし極めて感動的です。同様の印象は坂本龍一氏にも感じるのですが、教授は3.11と病気を経て、一段上の次元に到達しようとされてるようにも思われます。

 

さて、ミンガスのピアノは嫌いじゃないと書きましたが、実はわたしが一番好きなミンガスのピアノ演奏はこのアルバムではありません。それは、ミンガス最晩年の新作、『Cumbia and Jazz Fusion』(1977)に収められているこの2曲です。

 

クンビア&ジャズ・フュージョン<SHM-CD>

クンビア&ジャズ・フュージョン

 

 

1. Cumbia and Jazz Fusion
2. Music for "Todo Modo"
3. Wedding March/Slow Waltz
4. Wedding March/Slow Waltz(Alternate Take)

の4曲(実質3曲)だけで構成されたこの作品、わたしは行き着くところまでいってしまった、ミンガスの最高傑作だと考えています。グルーヴ、熱狂・凶暴性、狂気、ロマンティシズム…ミンガスのすべてが詰め込まれています。『黒い聖者と罪ある女』の最終形態といってよいのではないでしょうか。

この中で、「Wedding March」はミンガスのロマンティシズム、純粋さが顕現した音楽なのです。恥ずかしい話ですが、わたしは自分の結婚式の新郎新婦入場でこの曲を使いました。でも、これを聴いたら、きっとあなたもこれを使いたくなると思いますよ。伝統ある式場であればあるほど、この曲は映えるはずです。

 

さて、この作品を聴くと、わたしはついついジャコの『Word of Mouth』を連想してしまいます。ともにカリスマ的なベーシストの晩年の作品であり、それぞれの才能の充溢が爆発した作品であること、オーケストラの作品であること、トンガッた前衛的な面と危ういセンチメンタリズムが同居していること、がその理由でしょうか。

そして今回の記事に関連して強調しておきたいのは、ジャコの「Blackbird」はミンガスの「Wedding March」に対応しているのではないか、ということ。ジャコがビートルズの「Blackbird」を入れたのは、単なる箸休め的な意味ではないはずです。半生の振り返り、幸福な時代への目配せ、ソロ演奏という内省…そんな意味が込められているのでしょう。

 

このミンガスのピアノ作品は63年の7月30日録音です。63年? 63年といえば、後期エリントンの奇跡、「63年2月の奇跡」の年じゃないですか!

 

 

ミンガスは、62年9月の『Money Jungle』録音後の約1年後、このピアノ・ソロ集を録音しましたと。

これには、エリントントン共演がいくらか影を落としているのではないでしょうか。」しかしエリントンをカバーしていないのは、あまりに畏れ多くて、ビビっちゃってカバーできなかったとか、あえて対象から外した、とか……やっぱり少し無理があるかもしれません。

いずれにせよ、今日はミンガスのピアノにかこつけて、以前から考えていたことが掛けたので満足です。

 

野口久光ベストジャズ(1)

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