Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

寺島靖国氏、安原顕氏の浅薄さ、いい加減さにガッカリ。

はあ……マスター、久しぶり。 

あんまりここでは否定的なことは言いたくないんだけど、最近読んだ本があまりにもひどくてさ、ガクッときちゃったからちょっと愚痴らせてよ。 

読んだ本ってのはこれなんだけどさ。 

 

JAZZジャイアンツ名盤はこれだ! (講談社プラスアルファ新書)

JAZZジャイアンツ名盤はこれだ! (講談社プラスアルファ新書)

 

 

たった2回の対談をまとめただけの本なんだ。いや、それはいいんだよ、内容が面白ければ。ぼくは面白くないから腹が立ってるんだよ。例えばこんなところ。エリントンが好きだからさ、エリントニアンの名前とかが目に入るとドキッとしちゃうわけよ、こっちとしては。

 

安原 トロンボーンを始めてからアービー・グリーンが好きになったって書いてたけど、J・J・ジョンソンとかカイ・ウィンディングとか、トロンボーン奏者のジャイアンツもたくさんいるけれど、いまは誰が好きなの?

寺島 たったいまはローレンス・ブラウンだね。

安原 誰、それ? 知らない。

寺島 エリントン楽団にいた黒人のトロンボーン奏者なの。今度「PCMジャズ喫茶」に持って行きますよ。アービー・グリーン系の音で、ベルベット・トーンなの。ビロードの上を銀の靴下で歩いていくような音、ゴリゴリつていうんじゃなくてね。実に微妙な音を出すんだよね。

(82-83頁)

 

 

この時点でやな予感はしたんだ。そりゃローレンス・ブラウンは有名…ではないかもしれないけど、ジャズの本を読んでればちょこちょこ耳にする名前だと思うけどなあ、ボントロ奏者自体、あまりたくさんいないし。ヤスケンさんよ、大丈夫かい?

で、この寺島氏のトロンボーンの先生のライブに行った話もあったりするんだ。がっかりしたのはこのくだりなんだ。

 

安原 そのバンドって、スタンダードばっかり?

寺島 スタンダードが中心だけど、なかなか面白いバンドなの。

安原 ジャズでバス・トロンボーンが入るのって珍しいよね。

寺島 そうね。この前、カウント・ベイシー・オーケストラを聴きに行ってわかったんだけど、例えばトロンボーンが四人、サックスが四人いたとする。アンサンブルの時って、サックスならサックスが同じ音とハーモニーを出していると思う?

安原 思う。

寺島 ところが実際には、一人一人全部違うことをしているのね。

安原 ええ! そうなの。

寺島 おれも知らなかったんだけど、合奏する時って、サックス、トロンボーン、トランペットとセクションが三層になってるよね。ところが各人のハーモニーは全然違うんだって。それに気づいたのは、トロンボーン四人のスライドの位置が違うからなの。あれっと思って、一人一人聴いてたら、違うことを演ってるの。いやあ、驚いた。そういうことも楽器をやってみて初めてわかったことだね。だからこの前は、ブッチ・マイルスのドラムじゃなくて、トロンボーン・セクションばっかり見てた。

(171-172頁)

 

 まず、この文章が何を言ってるのかよくわからないんだよ。「アンサンブルの時って、サックスならサックスが同じ音とハーモニーを出している」とか、「各人のハーモニーは全然違う」とか、「ハーモニー」の意味がわからない。

あれっと思って、一人一人聴いてたら、違うことを演ってるの」というところ、最初読んだときは対位法みたいに、セクション内で皆がバラバラの動きをしているのか、ベイシーなのにずいぶん難しいことしてたんだなあ、と思って読んだんだけど、全然違う。セクション内でリード、セカンドサードっていうパートをそれぞれ吹いてただけの話でしょ、これって。 どうもこの2人、ホーンセクションって全員ユニゾンで同じ音吹いてると思ってたみたい。…まさかなあ、そんなアホなこと言ってないだろうと思ってたけど、ここからはそうとしか読めないなあ。本当に最初は何言ってるのか全然わからなかったよ。音楽評論家としてどうなの、これ。小学生の芸術鑑賞会の感想文じゃないんだから。 あと、ジャズでバス・トロンボーンって、コンボ以上の少し大きい編成の場合は別に珍しくないでしょ。

 

え? 今日はいつになく「上から発言」じゃないかって? そうかもね。いや、これが普段音楽とかあまり聴かない人が言ってるんなら、ぼくもこんなこと言わないよ。でも、この2人は音楽評論でお金もらってる人なんだよ。それがコレじゃあなあ。評論家がバカにされるわけだよ。

 

正直、これよく発表したな、と思うよ。自分だったらこんな発言は廃業宣言と同義だよ。だってこれって、ハーモニー/和音というものがまったくわからない、と言ってるのと同じことでしょ? それも、メジャーやマイナーといったハーモニーの和音の区別に関することじゃなくって、単音(ユニゾン)か和音か、というレベルの話なんだから。AKBとかジャニーズのユニゾンのボーカルが聞こえても、この2人にはハーモニーに聞こえるんだろうね。いや違うよ、ユニゾンを馬鹿にしてるわけじゃないって。ユニゾンでありながら表れる「ゆらぎ」の気持ちよさってのがあるよね。アイドルものの楽しさってそれだし、エリントンやベイシーだって効果的にユニゾン使うことあるしね。これで今までよく音楽評論家を名乗れたな、と思う。ヤスケンさんって、クラシックも詳しいんじゃないの。ボロって、こういうなんでもないところで出ちゃうのかもね。 

 

あとさ、これって読者をバカにしてると思うんだ。寺島センセイがこんなこと言うのは、これが皆と共有できる新たな発見だと思ってたからでしょ? つまり、「オレの読者もこのことは知らないはずだ」って。いやいや、発見だと思ってるのはあなただけですよ、センセイ。寺島センセイの読者は、以後このことを意識した方がいいと思うなあ、この程度と思われてるんですよ、読者のみなさんは。まあ、ヤスケンさんには新たな発見だったみたいだけど。

 

これでこの人達が音楽について書いてきたことに関する信用度がガタッと落ちちゃったなあ。まあ、これまでもそんなに読んでなかったけど。長い愚痴になって悪いね。ヤスケンに関しては最近こんな本を読んでさ、これもひどかったんだよ。

ハラに染みるぜ!天才ジャズ本

ハラに染みるぜ!天才ジャズ本

 

 

何しろ、自分の気に入らないものはすぐに「クズ〇〇」と切捨てて終わり。ただただ、読んでて辛かった…。

褒める場合は短い言葉でもいいが、批判する場合は言葉を尽くすのが相手/対象に対する礼儀である,というようなことを確か四方田犬彦がどこかで書いてたけど、その意味でマナー違反だよ、ヤスケンは。今日、ぼくがこんなにだらだら喋ってるのもそれが理由でさ、何が嫌だったか、ということはきちんと言っておくべきだと思ったんだよね。

せめて悪口が芸になってればいいけど、読んでて苦痛になるのはいいとこなしだ。それって書き手のストレス解消なだけ。フラストレーションが溜まってるなら、プライベートに処理してよ。こっちまでイライラしちゃうよ。寺島センセイの「辛口」ってのもあてにならないなあ。まともなこと言ってて厳しいのなら辛口だけど、自分の好みとかを何も考えずに書いてるだけなんじゃないの。 

 

だけど、いい面もあるんだ。

以後、この2人の書いたものはまったく気にしなくていい、ということがわかったから。今はとにかく目に入ったエリントンに関するものを読み漁ってるところでさ、考える前の話として、そのチェックだけでも時間取られて大変。だから、この2人が書いたものを除外できるのはうれしいね。著作の数だけは膨大だから。

一応、気にはしてたんだよ? なにしろ、片や「スーパーエディター」……あれ? 「スーパー・エディター」かな? ああ、中黒は要らないんだ、一語のつもりなのかな、どうでもいいけど……、片や「人気ジャズ評論家」兼「ジャズ喫茶経営者」だもんね。

世間的にはすごく人気のある2人だけど、ぼくが好きな作家、もの書き、ミュージシャン達はたいていこの2人のこと批判してるから、気にはなってたんだ。本当のところ、どうなんだろって。…批判されるのには理由があるもんだね。むしろ、世間的に人気があるのが不思議だよ。まあ、世間の評価をあてにせず、自分の頭で評価しろ! ということのいい教訓にはなったね。

 

マスター、ごめん。耳を汚しちゃったね。

また来るよ。今度はもう少し楽しい話を持ってくるから。

 

【追伸】(2018, 1/25)

その後、部屋の整理をしていたら、寺島靖国氏の『JAZZリクエスト・ノート』を発見。買ったのがいつだったか、いや、そもそも買ったことかすら覚えていなかったのだが、処分する前におそるおそる一通り目を通してみた。

 

  

目次に「ギル・エバンスはそんなに偉い人なのか! 僕には永遠に不可解である」とあるのを見て、早くも読む気が減退。とことんセンセイとは合いません。

エリントンに関する内容はほとんどないんだけど、巻末の「ビッグ・バンドを聴く8枚」で『ハイ・ファイ・エリントン・アップタウン』が。

 

ジャングル音楽のエリントンが分からない。「ザ・ムーチ」がそれだが、彼が賞賛されるのは誰も真似のできない音楽を作ったからだ。つまり個性の勝利というわけだ。だからよし悪しでなく好き嫌いで彼を評していい。聴きもせずむやみに褒めるのは恥かしい。ここではルイ・ベルソンの疾風のようなブラシがぼくの唯一聴き物。

この短いコメントにあれこれ言うのもどうかと思うけど、「つまり」「だから」のロジックがわからない。これ、自分の批評能力の無さを曝け出しているだけでは? もっとも、ギル・エヴァンスについては自覚があるようで、センセイは「お前のフィーリングをはるかに超えているのだ、といわれればその通りかもしれない」と書いておられる。さすが、よくわかっていらっしゃる! 

 

もっとも、ホッジスはお気に入りのようで、「ジョニー・ホッジスの『トリプル・プレイ』に見たもうひとつの才能」という記事もあるくらい。もっとも、ホッジスのなにがいいいのかについてはほとんど述べられていないけど。ちなみに「もうひとつの才能」とは、「強い個性をスパイシーに使って、バンド・カラーの色どり(原文ママ)にする」こと。「メンバーの個性を使いこなす」って、それこそエリントンの才能なのでは。エリントンがホッジスから曲(またはそのフレーズ)を盗んだ(と言われている)ように、ホッジスもエリントンからその才能を盗んだ、とは言えないだろうか。問題はその盗み方であり、単に刺激物として個性を使うのか、個性を活かしながら全体に調和させて使うのか、という違いこそがここで考えるべきことであり………まあ、そこまでセンセイにお願いするのは無理な相談なのかもしれない。なにしろ、センセイはエリントンは「好き嫌い」で判断する音楽家なので、考える時間を費すに価しないのでしょう、きっと。

 

 

Triple Play

Triple Play