Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

ベニー・グッドマンの「カーネギー・ホール・ジャズ・コンサート」がエリントンに与えた影響

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野口久光のエリントン盤紹介、1枚目はなんとベニー・グッドマン

エリントンではなくエリントニアン出演の1枚から。 

 

 今月の軽音楽レコード中まず取り上げなければならないのは、コロムビアのLP盤による『ベニー・グッドマンカーネギー・ホール・ジャズ・コンサート』であろう。コロムビアが他社に率先してLPの日本プレスを始めたことは、わがくにの洋楽ファンにとってよろこばしいことではあったが、それが今までは軽音楽の分野に及ばなかったのは、片手落らの感があった。しかし、ここにその記念すべき仮初のLP軽音楽盤が発売されたわけである。この一枚はラジオなどでも最もリクエストが多く待望されていたものだけに、LP第一号としては好適なものであり、今後はジャズばかりでなく、シャンソンなどもどしどし出すように願いたいものである。

 このレコードは一昨51年春アメリカで発売されて相当騒がれたものであるが、原形の2枚4面のうち第1面、第4面をカップリングした一枚がここに出されたのである。もともとこれは1928年1月カーネギー・ホールで催された歴史的なジャズ・コンサートをアセテート盤に録音してあったものからLPに移したものであるが(当時はテープ・レコーダーもなかった)、マイクロフォン一個で録音したといわれるこの音質は同時代にビクターに入れたグッドマンのレコードにくらべて優るとも劣らない。当時のビクター盤で出ている曲も大分合まれているが、聴衆を前にした檜舞台の張り切った演奏だけに、それと比較してきくとかえって興味深いものがある。レコーディング・スタジオに於ける演奏にくらべて幾分ラフなところもあるが、熱のこもった生き生きとした演奏の実感は、クラシック音楽の場合には求め得ないところであろう。グッドマン楽団も1938年春といえば、ジーン・クルーパ、ハリー・ジェームスなどの退団直前のころで、彼がベスト・メンバーを擁し、スウィング全盛時代の王者の地位を誇っていた時代であり、このコンサートにはカウント・ベイシーデューク・エリントン両楽団のスター・プレイヤー数名がゲストとして出演しているから、その壮観はまさに歴史的である(但しベイシーのメンバーは残りの部分に出演していてここにはあらわれない)。

 第1面の「そんなのないよ」〈Don't Be That Way〉、「One O'Clock Jump」「Life Goes to A Party」の三曲はいずれもグッドマンのお得意のナンバーである。最初の曲はグッドマン自身作曲者のひとりで彼のFavorite Tuneであるが、このコンサートの幕開きにふさわしい華麗且つ優美な曲で、ハリー・ジェームズの若々しい張りのあるソロとクルーパの陽気なドラミングに早くも熱狂する聴衆のリアクションが録音されていて、当夜の会場を彷彿たらしめるものがある。次の「One O'Clock Jump」はカウント・ペイシーの有名曲だが、ジェス・ステイシー(p)が風格ある独自のスタイルをもって主旋律を演奏し、ペイブ・ラッシン(ts)、ヴァーノン・ブラウン(tb)、グッドマン、ジェームズの各ソロがフィーチャーされる。「Life Goes to A Party」はかつてレコードに入ったものとほとんど同じである。前曲の二曲が艮く、グッドマンのフル・バンドのチーム・ワークのよさ、優れたソロ奏者がものをいって今日きいても充分たのしめる。殊にリズム・セクションは録音のせいもあろうが、強いスウィングが感じられる。この三曲を挾む五曲はジャズのスタイルの変遷をピックアップ・メンバーによって演奏したもので、「Original Dixieland One Step」(この曲名はどうしたものかアメリカでも間違ったまま印刷され発表されているが、演奏される曲は「Sensation Rag」である)をオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドの1917年頃のスタイルで演奏する。メンバーはグッドマン、グリフィン(tp)、ブラウン(tb)、ステイシー、クルーパの五人で、クルーパのツー・ビート・ドラミングが珍しい。

 次の「I'm Comin' Virginia」は故ビックスのスタイル(1927年頃の)をそのまま客演のボビー・ハケットがコルネットで演奏する。アラン・ルイスのギターが、これまた故人となったエディ・ラングのスタイルをコピーしてみせるがマイクが遠く効果がわるい(この原型はコロムビアからフランキー・トランバウアー楽団の名前で出ている)。次の「When My Baby Smiles at Me」はテッド・ルイス楽団(1920年代の寵児)のコピーで、グッドマンがルイスを真似て愛嬌をふりまく。次の「Shine」はルイ・アームストロングをジェームズがコピーする。そして五曲目の「Blue Reverie」はエリントン楽団の三人のスター・プレイヤー、ジョニー・ホッジス(ss)、ハリー・カーネイ(bs)、クーティ・ウィリアムス(tp)がゲストとしてあらわれ、エリントン・ムードを満喫させる。

 第二面に入ってBGクヮルテットの「Stompin' at the Savoy」と「Dizzy Spells」はグッドマン、テディ・ウィルソン(p)、ライオネル・ハンプトン(vib)、ジーン・クルーパ(ds)というオリジナル・メンバーでともに大変な熱演であり、既発売の十吋盤(10インチ盤)よりはるかに長時間にわたる。次いでこのコンサートのクライマックスをつくった「Sing Sing Sing」の演奏である。既発売の十二吋盤のヴィド・ムッソ(ts)に代わってここではラッシンがテナーを受け持っているほかはアレンジもそのままであるが、クルーパのドラムが一層派手であり、ステイシーのピアノがきれいなフィル・インをしていくところは新味がある。それとBGの長いソロの後にステイシーのピアノが三コーラスにわたるすばらしい楽想を展開する。おかしいことに、グッドマンのレコードでステイシーのソロの入ったものが非常に少なく、このLPに於けるステイシーのソロはその意味からも珍重すべきものであり、このコンサートの最もエキサイティングな部分だといえよう。これに続きもう一曲アンコール・ナンバーとして演奏された「Big John Special」が入っている。以上コンサートの約半分に当たる五十分に近い演奏であるが、宣伝文句抜きにしてもこれは歴史的な意味とともに、最近のスウィング・リヴァイヴァルの気運をつくったジャズの名演奏名盤として価値高いものがあろう。    

(53年2月)

 

 

…熱意はすごいが、初めて聞く名前も多く、この興奮を共感できないのが切ない。

「吋」は「インチ」 と読む。「於ける」「楽想」などのおどろおどろしい表現にも時代を感じてしまうなあ。楽理に踏み込まずに音楽的内容を語ろうとすると、印象批評的な表現に鳴ってしまうのが歯がゆいところだ。

さてこのアルバム、原題は『The Famous 1938 Carnegie Hall Jazz Concert 』。その後、完全版とか40周年記念盤とかいろいろ出てる。

 

ベニー・グッドマン・アット・カーネギー・ホール 40周年コンサート (紙ジャケット仕様)

ベニー・グッドマン・アット・カーネギー・ホール 40周年コンサート (紙ジャケット仕様)

  • アーティスト: ベニー・グッドマン,ジャック・シェルドン,ウォーレン・ヴァシェ,ヴィクター・パズ,ウェイン・アンドレ,ジョージ・マッソ,ジョン・メスナー,ジョージ・ヤング,メル・ノドロン,バディ・テイト
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2006/06/14
  • メディア: CD
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管理人としては、もちろん太字部分のエリントニアンの箇所が大事。

特にホッジスがソプラノで参加したところが興味深い。

 

さて、エリントンはこのコンサートに参加こそしなかったものの、エリントンへのこのコンサートの影響は大きかった。まず、単純に、クラシックの殿堂でジャズを演奏することの驚嘆。そしてそれを実現した男への羨望、その男が10歳年下のユダヤ人であることへの嫉妬。エリントンは複雑な感情を腹に溜め込んだことだろう。

次に、クーティ・ウィリアムズのグッドマン・バンドへの移籍。これは痛かった。移籍したのは2年後の40年のことだが、移籍の遠因として、この時のコンサートでのグッドマンとの接触が挙げられるはずだ。*1 また、ホッジスが51年に「ホッジスの乱」を起こして独立したことにも、このクーティの移籍は影を落としているかもしれない。

だが、エリントンも指を加えてみていたわけではない。38年といえばストレイホーンとのファースト・コンタクトの年。翌39年には、ジミー・ブラントンベン・ウェブスターが入団し、ストレイホーンがオケに加わって「3B時代」を迎える。人によってはこの3B時代こそエリントンの全キャリアを通しての全盛期である、という人もいるくらいだ。エリントン自身がカーネギー・ホールでのコンサートを実現させるのは、そんな「3B時代」の余波がつづく43年のこと。組曲『Black, Brown, and Beige』の公演である。

ベニー・グッドマンのこのコンサートはこの伏線と考えると興味深いのだ。 『ベストイ・ジャズ I』がこのアルバムの紹介から始まっているのも実に象徴的なのである。

Carnegie Hall January 1943

Carnegie Hall January 1943

 

 

 

参考までに、その「伏線」のコンサートで演奏されている「Blue Reverie」、エリントンによる演奏は、例えばこれ。 

Dukes Men: Small Groups 1

Dukes Men: Small Groups 1

 

ただ、CDやレコードという形態にこだわらないのであれば、最近ではMP3などのデジタル音源の方がずっと入手しやすいだろう。 

 

 

野口久光ベストジャズ(1)

野口久光ベストジャズ(1)

 

 

*1:その後、クーティは62年に再入団する。