Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

NAXOSで聴く、SP時代のエリントン。(2) 『Cotton Club Stomp』(2)

ナクソスのエリントンの続き。

 

前回のエントリでは、ナクソスから出ているエリントンのSP時代のシリーズの第1作目、『Cotton Club Stomp 1927-1931』を紹介した。

 

 

今回は次の『It Don't Mean A Thing 1930-1934』の話を書こうと思ったのだが、改めて『Cotton Club Stomp 1927-1934』を聴きなおしてみると、これが実に面白い。

いろいろ調べてみると、編集意図など、このアルバムについて以前には気づかなかったことがわかってきたので、今回のエントリもこのアルバムについて書くことにする。

 

 

それにしても、ナクソスというレーベルはクラシックで有名だが、ジャズでもいい仕事をしている。特に年代順もので際立っており、簡易アーカイヴとして重宝するのである。

 

そして、たまにとんでもない音源が眠っているのも魅力。

管理人が失禁しそうなくらい驚いたのがこれ。

 

ソプラノ・サックスと弦楽オーケストラのための組曲

ソプラノ・サックスと弦楽オーケストラのための組曲

 

Amazonのこのリンク情報からはわかりにくいが、これ、featuring Dave Liebmanです。

デイヴ・リーヴマンの「ソプラノ・サックス組曲」!

これだけでも聴きたくなるじゃないか。

内容ももちろん期待を裏切らなかった。

ナクソスにはこんな作品がゴロゴロしているのである。

「ジャズのレーベル」という観点からでも、一度サイトを覗いてみる価値はある。

 


 

で『Cotton Club Stomp』だ。

 

コットン・クラブ・ストンプ (Duke Ellington: Cotton Club Stomp)

コットン・クラブ・ストンプ (Duke Ellington: Cotton Club Stomp)

 

 

これからぐだぐだとこのアルバムの話をするので、とりあえず収録曲を挙げておこう。

 

1. Cotton Club Stomp
2. Mood Indigo
3. Rockin' in Rhythm
4. Misty Mornin'
5. The Mooche
6. Ring Dem Bells
7. Three Little Words
8. Double Check Stomp
9. The Blues with a Feelin'
10. Jubilee Stomp
11. Creole Love Call
12. Harlem River Quiver (Brown Berries)
13. Black Beauty
14. Hot Feet
15. Saratoga Swing
16. Shoot 'Em Aunt Tillie
17. Black and Tan Fantasy
18. It's a Glory

 

まずはじめに言っておくべきこと。それは、

このアルバムは明確な意図によって編まれた1枚である、ということだ。

タイトルの「1927-1931」は収録音源の範囲を示しているだけで、曲順は年代順になっているわけではない。例えば、#1の「Cotton Club Stomp」は29年の録音だし、1番古い27年の録音は#12の「Harlem River Quiver」だ。

では、その編集意図とは何か? 管理人は、次の2つであると考える。

1.当時のコットン・クラブの狂騒を再現すること

2.シリーズ第一作目としてのエリントン・サウンドの紹介

 

 エリントンは1927年12月、コットン・クラブと専属契約を結ぶ('27 12/4 - '31 6/30)。周知のようにエリントンはこの3年間で歴史に残る大成功を収めたわけで、「1927-1931」というのはこの契約期間のことである。収録されている音源も31年6/30以降のものは収められていない。編集者は、この第1期コットン・クラブ時代の狂騒を伝えたいがためにこのアルバムを編んだ、と考えるのが妥当だろう(ちなみに第2期は37年~40年。40年にはクラブ自体が閉鎖となる)。

 

 コットン・クラブ契約前の音源は、#11「Creole Love Call」, #12「Harlem River Quiver」, #17「Black and Tan Fantasie」の3曲であり、これらが選ばれた理由も想像がつく。

 

 ナクソスのこのシリーズは、フランスのClassicsが元音源になっているが、その最初は1924年から始まっている。 

1924-27

1924-27

 

 

  だが、ナクソスはこの1枚は完全に無視。ナクソスからエリントンを聴こうとする人が、「ワシントニアンズ」や「ケンタッキー・クラブ」時代のエリントン・サウンド揺籃期の音源を聴いて、本丸に到達する前に挫折してしまうのを恐れたのかもしれない。決して悪い音源ではないと思うが、管理人も、「何もここから聴かなくても・・・」と思うので、この判断には納得だ。

 したがって、ナクソスのライブラリーは次の1枚、「1927-1928」意向の音源から収録曲を選ぶことになる。

 

1927-28

1927-28

 

 

前出の3曲はすべてこれに収録されている。

 その中でも、#11の「Creole Love Call」と #17「Black and Tan Fantasie」は初期エリントンを代表する曲であり、2曲とも初録音。エリントン・サウンドの始まり、という意味でも、ナクソスシリーズの1枚目に収めたかったのだろう。そして、#12の「Harlem River Quiver」は、やはりタイトルリストに「ハーレム」という固有名詞を響かせたかったのではないか。なにしろ、コットン・クラブがハーレムで営業をしていたのは23年から36年のあいだだけ。第2期コットン・クラブ時代のコットン・クラブは、ブロードウェイ48番街で営業していたため、「ハーレム」の「コットン・クラブ」は特別な響きをもっているのである。

 そして、収録曲中1番新しい録音は#18の「It's Glory」であり、この曲はこのアルバムの最後の曲でもある。録音は31年の6/16(6/17との表記もある)であり、これはコットン・クラブとの契約が切れる直前だ(契約期間は6/30まで。また、記録上確認できるエリントンの次の録音は32年2/3)。つまり、契約中の最後の録音を選んでいるわけで、「It's Glory」というタイトルといい、実に象徴的な1曲といえる。「Glory」とはコットン・クラブ時代のエリントン自身の暗喩として、言い得て妙ではないか。

 

 さて、このコットン・クラブ時代、これまでは音源を編集するときは「1927-1934」という区分でまとめられることが多かった。ブルーバードの「栄光の遺産」シリーズもこの区分だ。

 

Duke Ellington (1927-1934)

Duke Ellington (1927-1934)

 

 

デューク・エリントン/1927~1934

デューク・エリントン/1927~1934

 

 

 従来のこの区分ではなく、「1927-1931」という時代区分を採用した姿勢に、「いやいや、コットン・クラブ時代を聴こうとするなら、やっぱり1927-1931という区切りで聴くべきなんじゃないの?」という批評性を読み取ることもできるのである。

 

参考までに、この『Cotton Club 1927-1931』の音源、Classics のアーカイブなら、対応する期間は実に9枚分(「1924-1927」と合わせるとちょうど10枚)!

 

1924-27

1924-27

 

 

1927-28

1927-28

 

 

 

1928 by Duke Ellington (1996-05-03)

1928 by Duke Ellington (1996-05-03)

 

 

1928-29

1928-29

 

  

1929

1929

 

 

 

1929-30

1929-30

 

 

 

1930

1930

 

 

1930 Vol 2 by Duke Ellington (2013-05-03)

1930 Vol 2 by Duke Ellington (2013-05-03)

 
1930, Vol. 2

1930, Vol. 2

 

 

1930-31

1930-31

 

 

1931-32

1931-32

 

 

・・・やっぱり、はじめからこれ全部は聴けないよなあ、同名曲のテイク違いもいくつも収録されているし。その意味でもこの『Cotton Club Stomp 1927-1931』、おススメなのだ。

 

で、肝心の音楽の内容も素晴らしい!

特に、若きハリー・カーネイの鮮烈なバリトンと、ウェルマン・ブロウドのベースがブリリアントで…という話をしたかったのだけど、いい加減長くなりすぎるので今回はここまで。

 

このアルバムの話はまだ続きます。

 

コットン・クラブ・ストンプ (Duke Ellington: Cotton Club Stomp)

コットン・クラブ・ストンプ (Duke Ellington: Cotton Club Stomp)