Kinda Dukish (かいんだ・でゅ~きっしゅ)

「デューク・エリントンの世界」別館。エリントンに関することしか書いてません。

エリントンのハーレム・ルネッサンスについて。(小川隆夫氏の著作より)

ジャズ・ミュージシャンのブラインドフォールド・テスト・シリーズが面白かったので、その他の小川隆夫氏の著作を読む。

 

 

ジャズを知りたい、と思った人のためのような本。「トリビア多めの通史の教科書」といった感じで読みやすい。エリントンに関する箇所を引いておく。 

 

エリントンの登場とハーレム・ルネッサンス

 二〇年代に入ると、ニューヨークではダンス音楽的なジャズや、それを一歩進めた鑑賞用の音楽としてジャズを聴かせる店が増えてくる。それというのも多くのピアノ・プレイヤーが各地からニューヨークに出て、オーケストラを結成するに至ったからだ。中でも一九二三年にワシントンDCからやってきたデューク・エリントン(ピアノ)の活動には目を見張らされる。

 ニューイングランド地方でツアーを続けていたエリントンの楽団が、新装なった「コットン・クラブ」に進出したのは二七年一二月のことだ。以後オーケストラは三二年まで同クラブで活躍し、この間に主要レパートリーの多くを完成させて決定的な名声を確立する。

 二〇年代のニューヨークは、一四年に勃発した第一次世界大戦の終了(一八年)に伴い空前の好景気に沸いていた。ハーレムもその好景気と無縁でなく、多くの高級ナイト・クラブが誕生したのである。〇一年に最初の黒人が住み始めてから二〇年。この間にハーレムは白人のための高級歓楽地になる一方、少しずつ黒人の居住区としての顔も持つようになってきた。したがって裕福な白人たちは、黒人文化や習慣に触れたいという好奇心も手伝い、ハーレム詣でをするようになったのである。その中心的な場所が「コットン・クラブ」だった。

 この時点で、ハーレムには約四〇ヵ所のナイト・スポットがあった。すべてがジャズを聴かせるクラブではなかったものの、「コットン・クラブ」以外にジャズが楽しめる店には、「サヴォイ・ボールルーム」をはじめ、「バロンズ」、「シュガー・ケーン」、「バンブー・イン」などの名前を見つけることができる。

 エリントンは「コットン・クラブ」を中心に活動し、黒人によるエンタテインメントの基本形ともいえるスタイルを築いた。それはジャングル・ムードと形容される独特の喧騒感の中、音楽的に優れたオーケストラル・ジャズを骨子に、歌あり、ダンスあり、コントありのヴァラエティ・ショーに似たものだった。

 ハーレムは、ハーレム・ルネッサンスなる再開発キャンペーンもあっておおいなる賑わいを呈していた。それは黒人による芸能活動にも一層の拍車をかけることにつながった。多くの黒人音楽家たちが演奏の場を求めて各地から集まってきていたことも無視できない。二〇年代前半から始まったハーレム・ルネッサンスは、エリントンの「コットン・クラブ」出演でピークを迎え、それはキャブ・キャロウェイ(ヴォーカル)、チック・ウェッブ(ドラムス)、ドン・レッドマン(サックス)、ファッツ・ウォーラー(ピアノ)などのスターを生み出していく。 (18-20頁)

 

コンパクトながら 要点をおさえ、時代背景も説明されている。小川隆夫氏はこのような基礎情報をまとめ、提示するのが非常にうまい。あと、トリビアへの嗅覚も。最近のこの著作なんかはその最たるもの。ゴシップとしても知りたいし、研究対象としても知りたい情報だ。

 

ジャズメン死亡診断書

ジャズメン死亡診断書

 

 

小川隆夫氏の一連の著作は、いわゆるジャズの「読み物」ではなく、「研究書」としての価値があるのではないか、と最近考えている。

この死亡診断書も含めて、一見、小川氏は面白い「読み物」のようにみえるが、実はこれらの著作が行っているのは事実(ファクト)の記録として読むべきなのではないか。

これは音楽に限らずなんでもそうだが、研究書・解説本に求められるのはまず正確性だ。著者の解釈の独創性などは2の次であり、思い入れや面白い表現はさらにその次の要素。

小川隆夫氏の著作は、研究書・一次資料と考えると実に有用なのだ。ただ、それなら参考文献や聴取時のデータなどをもっと充実してほしいところではある。。。

 

さて、この本にはもう一つの特徴があって、それは「レコード・コレクター向けの本」であるということ。なにしろ、「コレクター心得一〇箇条」や「マニア御用達の廃盤専門店」、「レコード店での注意(その1~4)」なんて章がある。さらには「愛すべきコレクターたち」にマイケル・カスクーナとボブ・ベルデンが紹介されてたりして、ちょっと笑ってしまった。

現在、この本は絶版のようだ。類似内容としては次の本があるが、少し内容が異なる。特にレコードコレクター関係が削られているようだ。

 

知ってるようで知らない ジャズおもしろ雑学事典 ?ジャズ100年のこぼれ話?

知ってるようで知らない ジャズおもしろ雑学事典 ?ジャズ100年のこぼれ話?

 

 

今回のエントリでこの本を取り上げたのは、上記の「ハーレム・ルネッサンス」の他に、やはりレコード関係でエリントンに関することがあったから。それについては次回。